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GNSS衛星による詳細な全球TEC分布に加えて、複数の衛星・地上観測の連携による解析研究が近年盛んにおこなわれている。観測で見られる現象の背景にある物理を調査し考察することにおいて、GAIAからのアプローチが期待される。また、この改良モデルによる、宇宙天気情報の一つである電離圏嵐の予測精度の改善については、以下の4.1で述べる。GAIAによる超高層大気予測とデータ提供4.1リアルタイム・予測計算GAIAによる大気圏・電離圏情報をNICTの宇宙天気予報に役立てるため、GAIAのリアルタイム・予測計算と電離圏じょう乱予測の利用検討を行っている。電離圏じょう乱として、電離圏嵐については本節で、電波伝搬に影響を及ぼすスポラディックE層については本特集号の2-5 [30]で紹介する。その他、リアルタイム計算を用いて、3.1で紹介した成層圏突然昇温現象のモニターや、短波帯の電波伝搬の可視化[31]も行っている。リアルタイム計算とは、実時間とほぼ同じタイミングに、その時刻のモデル計算を行うことである。さらに少し先の計算も行うことで、現況の把握に加えて予測情報を得ることができる。ただし、リアルタイム・予測計算は、モデルに入力する観測情報等の利用が限られることがある。その制約の中で、予測精度が十分に発揮できるかが重要である。GAIAでは、太陽紫外線の入力情報として波長10.7cmの電波強度観測に基づくF10.7指標を入力し、現実的な下層大気のじょう乱を考慮するために気象再解析データを入力する。F10.7指標は1日前まで、気象再解析データは2日前までのものが入手可能である。直近の入手可能なデータを用いて計算を行うために、GAIAのリアルタイム計算を、図8に示すように実装した[32]。気象庁の再解析データ(JRA)について、2日前の世界協定時(UT)0, 6, 12, 18時のデータを、日本時間(JST)18時過ぎに入手する。最新のF10.7値を入手し、モデル入力のためのデータ変換及び計算を行う。前日に行った、JRAを入力したGAIA計算(「JRAあり計算」と呼ぶ)を初期値に、JRAあり計算を1日間分進める。その後、JRAの入力がないGAIA計算(「JRAなし計算」と呼ぶ)を4日間分行う。計算日翌日のJST15時からの24時間分を、JST14時半からのNICT宇宙天気予報会議で予測情報として参照できるようにしている。この5日分の一連の計算を、毎日1回実施する。これを、2019年6月以降、継続して運用している。電離圏嵐予測の例を図9に示す。この図9b-9eは2020年9月19日に行った計算から得られた結果である。図9bは、日本上空の北緯37度のTECの、9月17日から21日までの時系列プロットである。赤線がJRAあり計算、橙色の線がJRAなし計算の結果である。黒線は、直近27日間の各時刻におけるTEC値の中央値である。黒線と比べて、TECの日変化に加えて局所的な変化がみられている。特に顕著なのは、20日及び21日の昼間の時間帯である。同じプロットに灰色コンターで示すのは、GAIAの電離圏嵐指標I-scaleである。I-scaleとは、この場所・季節・時間帯のTEC変化の長期的な統計分布に対する大きさを測るものである([33]及び[34])。ここで示しているI-scaleは、GAIAの1996年から2016年までの長期計算を基に求めたものである[32]。27日中央値の黒線の近傍にある濃い灰色の範囲内にある場合は、変動が統計的に大きくないものである。黒線から大きく外れて薄い灰色及4観測GAIAシミュレーション図9  GAIAによる電離圏嵐発生予測と観測結果の例 (a)観測による2020年9月17日から21日にかけての日本上空の緯度37度帯におけるTEC時系列結果。赤線が観測値、黒線は直前27日間の中央値、灰色コンターは電離圏嵐指標I-scale、青線で負相嵐の発生を示す。(b)GAIAによって、2020年9月19日に計算された、同5日間のTEC時系列分布。赤線がJRAあり計算、橙色の線がJRAなし計算、黒線がGAIA計算結果の27日間中央値、灰色コンターはGAIA版のI-scale、青線は負相嵐の発生予測 負相嵐発生を予測した9月21日UT6時の(c)TEC、(d)TEC27日中央値及び(e)両者の差分値の、全球経度・緯度分布。【実時間】★計算JRAあり計算JRAなし計算初期値1日前ある日2日後2日前1日前の計算ある日の計算予測部分1日後予予報報会会議議でで参参照照★計算【計算対象時間】☆予報会議☆予報会議3日前図8 GAIAリアルタイム計算の概要図 上に計算対象時間、下に実時間を示す。例えば、ある日の計算では、前日に行った「JRAあり計算」の結果を初期値として入力し、2日前の「JRAあり計算」と、1日前~2日後の4日間分の「JRAなし計算」を行う。34   情報通信研究機構研究報告 Vol.67 No.1 (2021)2 電離圏研究

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