び白色の領域までTEC値が達するものは、顕著な変動である。特に、各場所・季節・時間帯のTEC変化の標準偏差σに対して、+3σ以上または-2σ以下の変動が2時間以上継続する場合に、それぞれを電離圏正相嵐・負相嵐の発生と定義し、NICT宇宙天気情報として報告している。20日及び21日のTEC減少イベントは、-2σの閾しき値いちを2時間以上超えており、負相嵐の発生が予測された。21日の負相嵐発生時のTEC全球分布が、図9cである。図9dに示す27日中央値の分布と比べて、磁気赤道を挟むように平行してみられるTEC増大構造である赤道異常がはっきりしない。27日中央値との差分をとると、減少の特徴は明らかである(図9e)。このとき、O/N2比が小さく、21日は特に電場が西向きとなり、TEC減少に寄与していたことがGAIAから推測される。この時の観測結果が、図9aである。赤線が各時刻の観測値、黒線が各時刻における直前27日間の中央値である。灰色線は、長期観測結果に基づくI-scale[33]で、20日及び21日は、負相嵐の発生が確認された。GAIAによる電離圏嵐発生時刻と比べて2時間程度時間がずれるが、昼間の時間帯における発生を予測できた例である。他方、GAIAのTEC絶対値が観測に比べて2倍ほどと、異なっている。これは、モデルに含まれない物理過程等によるモデル誤差と思われる。しかし、電離圏嵐指標をGAIAにおいて定義して利用することで、モデルによる絶対値の再現性に制約がある中で、有意な変化を検出することが可能である。また、この絶対値のずれについては、現在取り組んでいるGAIAへの観測データ同化によって、改善するものと期待される。GAIAリアルタイム計算による電離圏嵐の発生予測精度を、2019年7月から2020年12月までの計算結果を用いて評価した。電離圏嵐の発生は、日本上空の北緯29・33・37・41・45度緯度帯のいずれかで、24時間以内に電離圏正相嵐もしくは負相嵐の発生が予測された場合を電離圏嵐発生日、そうでない日を静穏日とする。電離圏嵐の発生予測は、上記したようにGAIAのI-scaleをもとに判定し、観測による判定結果と比較し、評価する。電離圏嵐を予測して適中した日数をTP、予測したものの発生しなかった誤検出の日数をFP、電離圏嵐の発生があったものの予測できなかった見逃しの日数をFN、静穏の予測が当たった日数をTN、全日数をN = TP + FP + FN + TNとして、予測適中率 = (TP + TN)/N、空振り率 = FP/(TP+FP)、Heidkeスキルスコア= (TP + TN − Sc)/(N − Sc)、Sc=(TP+FN)/N×(TP+FP)+(FP+TN)/N ×(FN + TN)と評価する。これらの評価指数を、JRAなし計算の継続日数への依存性として示した結果が図10である。予測適中率は大きいほど、空振り率は小さいほど精度がよいことになるが、JRAなし計算が続くほど、精度が下がっていく様子が確認された。Heidkeスキルスコアは、ランダム予測の場合に0、それよりも予測精度が高い場合は正の値となる。宇宙天気予測期間(図10の緑の時間帯)は正の値が確認されてランダム予測よりは有意な予測ができることが示されたが、実利用には精度向上が必要である。なお、ここでの計算は、地磁気じょう乱に起因する電離圏嵐が含まれていない。3-3で述べた極域変動の考慮によって、電離圏嵐発生予測精度が70%ほど向上することが確認されている。現在、地磁気じょう乱等の影響も含んだリアルタイム計算への改良を進めている。JRAなし計算の継続日数JRAなし計算の継続日数JRAなし計算の継続日数適中率空振り率Heidkeスキルスコアランダム予測図10GAIAリアルタイム計算による電離圏嵐発生予測の精度評価 (a)予測適中率、(b)空振り率、(c)Heidkeスキルスコアについて、「JRAなし計算」の継続日数への依存性を示す。0は「JRAあり計算」の結果を示す。緑の時間帯は、予報会議で参照する期間。エラーバーは、電離圏嵐の適中日TPを、静穏の適中日TNと一日分入れ替えた場合の指標の値を、感度の参考として示す。352-3 全球大気圏-電離圏シミュレーション
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