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まえがき宇宙開発が急速に進む中、衛星通信、航法の安定的な利用が強く求められている一方、宇宙環境そのものの理解は十分とは言い難い。地球の超高層大気(高度100–1,000km)は、太陽からの強力な紫外線の影響を受けて、大気の一部が電離した状態(プラズマ)で存在しており、電離圏と呼ばれている。電離圏は、下層大気と宇宙空間をつなぐ遷移領域であり、多くの人工衛星が周回する領域であると同時に、衛星電波が遅延等の影響を受ける伝搬経路でもある。GPS等を利用した高精度、高信頼度の測位、航法が実用化されつつあり、電離圏による電波の伝搬遅延の影響は、要求される精度に対して相対的に大きくなっている。その補正のために、電離圏の物理過程の理解、現状把握、そしてその予測が強く求められている。赤道域においては、下層大気(対流圏)における活発な対流活動が、様々な時間・空間スケールの大気波動を引き起こし、赤道域特有の電離圏現象を生み出している。特に深刻な電波障害の原因となる現象として、プラズマバブルと呼ばれる現象が古くから知られている[1]。プラズマバブルは、電離圏下部の密度成層が不安定化して低密度領域が泡のように上昇する現象であり、その泡の内部は非常に不安定な不規則構造で満たされているため、電波伝搬に大きな影響を及ぼす。しかしながら、日々変化するプラズマバブルの発生を事前に予測する手段は現時点においては皆無である。赤道付近を航行する航空機・船舶にとって、衛星航法を阻害するプラズマバブルの影響は深刻であるため、プラズマバブルの発生を事前に予測し、その方向にある衛星を利用しない等の回避策を取る必要がある。宇宙天気予報の精度向上に向けて取り組むべきプラズマバブルに関する課題としては、(1)発生の有無を決定する要因の解明、(2)成長から衰退までのプロセスの理解、(3)電波伝搬に及ぼす影響の定量的評価、等が挙げられる。これらの課題の解決のために、電離圏局所シミュレーションが非常に有用である。ここでは、赤道電離圏を対象とした局所シミュレーション開発の歴史的経緯と現状、今後の展望について述べる。シミュレーションモデルの詳細についてはYokoyama[2]に示されているので、こちらも参照されたい。1赤道域に特有なプラズマバブルと呼ばれる電離圏じょう乱現象は、局所的なプラズマ密度の不規則構造を伴い、電波の振幅、位相の急激な変動(シンチレーション)が生じるため、GPS等による電子航法に障害を及ぼすことが知られている。このような電離圏じょう乱の発生機構を解明し、発生を事前に予測することが、科学・実用の両面から求められている。電離圏局所シミュレーションの開発は、そのようなじょう乱現象を再現し、発生の日々変化を予測し、その影響について定量的な評価を目指すものである。本稿では、現在までのモデル開発の歴史的経緯、今後の研究課題とその展望について述べる。Equatorial plasma bubble (EPB) is a well-known phenomenon in the equatorial ionospheric F region. As it causes severe scintillation in the amplitude and phase of radio signals and degrades electronic navigation systems such as GPS, it is important to understand and forecast the occur-rence of EPB from a space weather point of view. High-resolution ionospheric simulation models have been useful tools to understand the generation mechanism of EPB, to forecast day-to-day variability of EPB occurrence, and to evaluate its impact on radio propagation quantitatively. His-torical background of model development, recent research activities, and future prospects will be reviewed in this paper.2-4 電離圏局所シミュレーション2-4Ionospheric High-resolution Simulation横山竜宏YOKOYAMA Tatsuhiro392 電離圏研究

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