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に及ぼす影響を定量的に評価することを目的として新たなモデルの開発を行った[13]。このモデルは、中緯度帯に多く発生するスポラディックE層とそれに関連する電離圏不規則構造を対象とした数値モデルを改良したものである[14]。スポラディックE層は非常に薄く密度の高い層であり、電子密度の空間勾配が非常に大きい。この空間勾配を保持したまま計算を進めるために、非常に高い空間分解能を持つ座標系にCIP法と呼ばれる数値スキームを適用することで、スポラディックE層のシミュレーションを可能としていた。プラズマバブルの壁面では、スポラディックE層と同程度の急きゅう峻しゅんな電子密度勾配を持つことから、この中緯度電離圏モデルを赤道域に適用するための改良を加えることで、非常に複雑な内部構造を含むプラズマバブルを再現することに成功した[13]。図4に再現されたプラズマバブルの一例を示す。このモデルにHigh-Resolution Bubble (HIRB)モデルと名付けた。HIRBモデルを利用して、プラズマバブルの構造の東西非対称性[15]、鉛直風によるプラズマバブルのシーディング効果[16]が示された。また、内部の微細構造を詳細に解析した結果、過去の観測ロケットや人工衛星観測から推定された不規則構造のパワースペクトルとよく一致することが明らかとなった[17]。電離圏局所シミュレーションの今後の展望         現在までにプラズマバブルの生成機構と成長過程については、シミュレーション研究により多くの事実が明らかとなってきた。しかし、宇宙天気予報として最も重要である日々の発生予測については現状ではほぼ不可能な状況である。また、電波伝搬に及ぼす影響の定量的評価も重要な課題である。以下では、現在進めている研究開発項目について紹介し、電離圏局所シミュレーションの今後の展望について述べる。4.1電離圏全球シミュレーションとの結合プラズマバブル発生の日々変化は、様々な背景の要因で決定されていると考えられるが、局所シミュレーションではそのような全球規模の要因を全て含ませることは不可能である。一方、全球の大気圏電離圏を計算領域とするGAIAモデルでは、空間分解能は数十km程度が限界であり、プラズマバブルを直接再現することは現状では困難である。そこで、両者を階層的に結合し、プラズマバブルの発生を自己無撞どう着ちゃくに予測できる数値モデルを開発し、発生の条件を解明することを目指している。下層大気の変動と地磁気活動の影響を含めた数値モデルを構築し、定性的な季節・経度・地方時依存性による予測モデルから脱却することで、実利用に資するプラズマバブル予報モデルへの発展を視野に含める。図5に階層化電離圏モデルのイメージを示す。この結合モデルの実現に向けて、まずHIRBモデルの計算領域を全経度範囲に拡張し、同時にプラズマバブルを再現できる分解能を併せ持つモデルの開発を行った。電離圏の電場は、電離圏内を流れる電流の非4図4 HIRBモデルで再現されたプラズマバブル断面の電子密度分布[13]42   情報通信研究機構研究報告 Vol.67 No.1 (2021)2 電離圏研究

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