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で成長するプラズマバブルの再現を可能とした。図6に計算結果の南北断面図と中緯度域における高度400kmでの電子密度分布を示す。大気光観測で見られるような枝分かれしたプラズマバブルがはっきりと確認できる。どのような条件の下でこのような巨大なプラズマバブルが発生するのかについては今後の研究課題である。4.3電波伝搬に及ぼす影響の定量的評価プラズマバブルが電波伝搬に影響を及ぼすことはこれまでに述べたとおりである。プラズマバブル発達に伴い、電離圏下部の等密度線は大きく歪ゆがみ、短波帯の伝搬に影響を及ぼす。一方、プラズマバブル内部の不規則構造はVHF 帯からL帯にかけての衛星電波にシンチレーションを引き起こし[20]、またVHF帯の電波を散乱させることで赤道横断伝搬の原因にもなる[21]。プラズマバブル内部の電子密度分布は、観測ロケットや人工衛星により古くから観測が行われてきたが[1ほか]、いずれも軌道に沿った1次元の観測であったため、プラズマバブル内部の3次元構造については不明なままであった。HIRBモデルでは、磁力線直交方向の空間分解能を200mにまで向上させた計算が可能となっており、更なる改良を加えることで、シンチレーションを引き起こすスケールの不規則構造を直接再現することが可能となるであろう。短波無線通信や宇宙天気利用者のために短波帯の電波伝搬シミュレータHF-STARTが情報通信研究機構で開発されている[22]。HF-STARTは、IRIモデルやGAIAモデルから得られる3次元電子密度分布を入力として与えることで、任意の2地点間での短波帯電波の伝搬を推定できるモデルである。現状ではプラズマバブル程度の空間スケールの電子密度変動には対応していないが、空間分解能を向上させ、HIRBモデルの結果を入力として与えることで、プラズマバブル発生時の短波帯電波の伝搬を推定可能となることが期待される。一方、VHF帯やL帯のシンチレーションについても、高分解能HIRBモデルの結果を利用することで、定量的な評価が可能となる。電子密度分布の空間スペクトルを正確に計算した結果、過去のロケットや人工衛星による観測と非常に良い一致を示し、実際の1km以下のスケールの不規則構造が精度良く再現されていることが明らかとなった[17]。HIRBモデルで再現されたプラズマバブル内部の微細構造を位相スクリーンモデル等の電波伝搬モデルに与えることで、成長したプラズマバブルによるシンチレーションを定量的に評価できるようになることが期待される。まとめ1970年代に開発がスタートした電離圏局所シミュレーションは、計算機性能の進化とともに大きな発展を見せ、プラズマバブルの形態学的様相についてはかなりの点が明らかにされてきた。一方、宇宙天気予報として最も重要な発生の日々変化の理解とその予測については、現状では未だにほぼ不可能な状況である。発生の季節・経度変化や、赤道異常帯の広がりと発生の関係など、定性的かつ統計的な指標は存在するものの、日没時刻を迎えた時点で、この後プラズマバブルが発生するかどうかを判断する指標は皆無である。日々の発生予測を実現するためには、赤道域におけるリアルタイム観測を充実させると同時に、その観測データを同化して取り込める全球-局所階層化結合モデルを開発し、計算結果を電波伝搬予測モデルに与えるという、複合的かつ挑戦的な研究課題に取り組まなければならない。謝辞本研究は日本学術振興会科研費16K17814, 20K04037の助成を受けたものです。本研究の成果(の一部)は京都大学生存圏研究所「先端電波科学計算機実験装置(A-KDK)」を利用して得られたものです。参考文献】【1M. C. Kelley, “The Earth’s ionosphere: plasma physics and electrody-namics,” 2nd edn. Int. Geophys. Ser., vol.96, Academic Press, Boston, 2009.2T. Yokoyama, “A review on the numerical simulation of equatorial plasma bubbles toward scintillation evaluation and forecasting,” Prog-ress in Earth and Planetary Science, vol.4, article number 37, 2017. doi:10.1186/s40645-017-0153-63H. G. Booker and H. W. Wells, “Scattering of radio waves by the F region of the ionosphere,” J. Geophys. Res., vol.43, pp.249–256, 1938.4J. W. Dungey, “Convective diffusion in the equatorial F region,” J. Atmos. Terr. Phys., vol.9, pp.304–310, 1956.5D. T. Farley, B. B. Balsley, R. F. Woodman, and J. P. McClure, “Equato-rial spread F: Implications of VHF radar observations,” J. Geophys. Res., vol.75, pp.7199–7216, 1970.6R. F. Woodman and C. LaHoz, “Radar observations of F region equa-torial irregularities,” J. Geophys. Res., vol.81, pp.5447–5466, 1976.7R. F. Woodman, “Spread F – an old equatorial aeronomy problem fi-nally resolved? ,” Ann. Geophys., vol.27, pp.1915–1934, 2009.8A. J. Scannapieco and S. L. Ossakow, “Nonlinear equatorial spread F,” Geophys. Res. Lett., vol.3, pp.451–454, 1976.9S. T. Zalesak, S. L. Ossakow, and P. K. Chaturvedi, “Nonlinear equato-rial spread F – the effect of neutral winds and background Pedersen conductivity,” J. Geophys. Res., vol.87, pp.151–166, 1982.10M. J. Keskinen, S. L. Ossakow, and B. G. Fejer, “Three-dimensional nonlinear evolution of equatorial ionospheric spread-F bubbles,” Geophys. Res. Lett., vol.30, Issue 16, article number 1855. 2003. doi:10.1029/2003GL01741811E. A. Kherani, M. Mascarenhas, J. H. A. Sobral, E. R. de Paula, and F. Bertoni, “A three-dimensional simulation of collisional-interchange-instability in the equatorial-low-latitude ionosphere,” Space Sci. Rev., vol.121, pp.253–269, 2005. doi:10.1007/s11214-006-6158-x544   情報通信研究機構研究報告 Vol.67 No.1 (2021)2 電離圏研究

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