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う乱をモニターするために国内4地点(稚内、国分寺、山川、沖縄)にイオノゾンデを設置して常時データを取得している。図1は国分寺でEs層が発生した時のデータである。Es層の強さはイオノゾンデが発出する電波が反射される最大の周波数(foEs)を用いて表され、NICTの基準ではfoEsが8 MHzを越えた場合を「Es層の発生」と定義し、宇宙天気予報で報告を行っている。イオノゾンデで得られた電離圏のデータはデータベースに保存され、一般に公開されている。NICTでは観測のほかに電離圏の数値モデルを用いた研究も行っており、NICTと九州大学、成蹊大学の共同研究で開発された全球大気圏–電離圏モデルGAIA (Ground-to-topside model of Atmosphere and Ionosphere for Aeronomy)は、これまでに様々な電離圏現象の再現とその物理過程の解明に用いられてきた[3][4]。現在、気象の再解析データを入力としたGAIAのリアルタイムシミュレーションの試験運用を行っており、2〜3日先までの大気圏–電離圏の状態を予測することが可能となっている[5]。GAIAは電離圏だけでなく中性大気についても高精度で再現できることから、GAIAによるEs層の再現・予測の可能性についても検討を進めてきた。Es層形成の基本過程Es層が形成される高度では、イオンと中性大気の衝突周波数が大きいため、中性大気が動くとイオンも一緒に引きずられて動こうとするが、この高度ではイオンは地球磁場の影響も受けるため中性大気の運動から外れ、鉛直方向の運動が生じる。その結果、この領域で中性大気の風に鉛直方向のシアができると金属イオンが高度方向に集められて局所的にイオンの密度が高くなり、高電子密度の薄い層が形成される。このメカニズムは、ウインドシア理論(Wind shear theory)と呼ばれ広く一般に受け入れられてきた[6][7]。図2は中性風シアによるEs層の形成過程を模式的に描いたものである。北半球の場合、高高度の北向き水平風が発生すると、イオンは磁力線方向に動きやすいため、鉛直下向きのイオン速度が生じる。この時同時に低高度の南向き水平風が発生すると上向きイオン速度が生じ、それらの間の高度領域にイオンが集積することでEs層が形成される。同様に、高高度で西向き風、低高度で東向き風の条件においてもローレンツ2図1 2016年6月4日沖縄におけるNICTのイオノゾンデの観測 左はスポラディックE層の発生前、右は発生中の様子を示す。図2ウインドシア理論による Es層形成の模式図 Bは磁場、Zは鉛直上向き方向、Vnは中性風速度、Viはイオン速度。(左)北半球における南北風シアの場合。(右)北半球における東西風シアの場合。南北風シアの場合(左)では、中性風がイオンを南北方向に動かそうとするが、イオンは磁力線方向に沿って動きやすいので中央に集まってくる。東西風シアの場合(右)はイオンが中性大気とともに動こうとすると、イオンにローレンツ力が働いてイオンを中央に集める運動が生じる。48   情報通信研究機構研究報告 Vol.67 No.1 (2021)2 電離圏研究

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