力が働くことによりEs層が形成される。南半球では、東西風がEs層を形成する条件は同じであるが、南北風は、高高度で南向き風、低高度で北向き風の条件の場合にEs層が形成される。なお、この中性風の方向は磁力線座標における方向であり、一般に磁力線の方向は地理座標の南北方向とずれているため、実際の計算では地理座標での風向を磁力線座標での風向に変換する必要がある。このイオンの鉛直運動は、電離圏の全てのイオンに起きるが、背景のNO+やO2+などの分子イオンは化学反応が速く常にほぼ光化学平衡となるので、運動がイオン密度に与える影響は小さい。一方、金属イオンは化学反応が遅いため、運動の影響を強く受け、シアに伴って密度の急上昇が起きる。東西風シアと南北風シアの影響を比較すると、120 km以上の高度では南北風シアのほうがより効率良くイオンの鉛直運動を引き起こすのに対し、120 km以下の高度では東西風シアの影響のほうが強くなる傾向がある。したがって、Es層が最も良く現れる90 km〜120 kmの高度では、Es層は主に東西風シアで形成されると考えられる。数値モデルによるEs層の再現3.1Es層のモデル研究の歴史Es層を数値的に再現しようとする試みはすでに1960年代から行われ、これまでに数多くのモデル研究が行われてきた。基本的には中性風のシアを仮定して、ウインドシア理論に基づいて金属イオンをある高度に集積させるモデルであり、実際に適当な中性風のシアを仮定するとEs層的な構造ができることは古くから知られていた[8]。また、ロケット観測によって得られた中性風のシアと、それと同時に観測されたEs層が実際にある程度対応していることが簡単なモデルで確認されていた[9]。しかし、ロケット観測は限られた領域の瞬間的なデータであり、空間的な広がりや時間変動についての情報を得ることができないため、Es層の精密なモデルの開発は困難であった。近年、大気圏–電離圏モデルが世界のいくつかの研究機関で開発され、数値精度が向上するにつれて、モデルで得られた中性風を入力としてEs層の形成を再現するシミュレーションが行われるようになってきた[10]。国内では、NICTが中心となって開発したGAIAと局所的に高精度の電離圏モデルを用いて、Es層を再現し、実際に観測されたEs層との比較が行われ、観測を良く再現できることがわかった[11]。3.2Es層のモデリング方法Es層をモデルで再現するためには、金属イオンを含む電離圏イオンについて連続の式と運動量の式(イオン速度の式)を解く必要がある。通常、Es層の領域ではイオンや電子の温度は中性大気の温度とほぼ同じと仮定してよいのでエネルギーの式は解かなくてもよい。また、Es層の高度領域では運動方程式の速度の時間変化と慣性項は無視できる。したがって、下部電離圏でのイオンの方程式系は以下となる。連続の式(1)イオン速度の式 (2)(3)(4) ,, (5)ここに、n: 密度、v: イオン速度、u: 中性風速度、T: 温度、B: 磁場、E: 電場、P: イオン生成率、 L: イオン消滅率、 m: 質量、 p: 圧力、 g: 重力加速度、q: 素電荷、vin: イオンの中性大気に対する衝突周波数、Ωi: イオンのジャイロ周波数、kB: ボルツマン定数である。添字 i、 e、 n はそれぞれイオン、電子、中性粒子を表す。一般に、電離圏領域では磁力線に並行な方向には等電位として良いので、電場は磁場に垂直な成分(E⊥)のみとしている。また、Es層高度ではイオンと電子の温度はほぼ中性大気の温度であるので、Ti = Te = Tnとしてよい。上記のイオン速度の式(2)は一般的な形であるが、小さい項と電場の項を無視すると、鉛直方向のイオンの速度の式は近似的に以下のような比較的簡単な形で表すことができる。 cos 2 sin 1 cos 21(6)ここに、wi: イオンの鉛直速度、I: 磁場の伏角、V: 南向き中性風速度、U: 東向き中性風速度である。図2で模式的に示したように、南向き風中性Vと東向き中性風Uの正負の符号、すなわち水平風の風向によって、鉛直イオン速度の向きが変化することがわか3492-5 スポラディックE層の再現
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