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は0.5 km、140 kmから上は徐々に間隔を広げて上端付近で2.0 kmとする。水平方向の格子間隔は0.25度としている。金属原子と金属イオンの初期分布はロケット観測や理論研究から得られた経験モデルに基づいて与えている。図3にシミュレーションの結果と観測で得られたCa+の密度を示す。右図は2015年12月8日に北緯35.7度、東経139.8度でライダーで観測されたCa+の密度の高度分布を示している。日本時間20時頃から高度120 km付近にEs層が現れ始め、次第に密度を上げつつ下降していく様子が見える。また、高度90 km付近から非常にゆっくりと下降していくもう一つの層も観測されている。このようなEs層の二重構造はこれまでにも様々な観測で報告されており、大気潮汐波によるシアの特徴的な構造に対応していると考えられている。同じ時間・場所に対応した3次元数値シミュレーションの結果が図3の左図である。観測に比べEs層の高度が10 km程度高いが、ほぼ同様の層が形成され、下降していく様子が再現されている。他の日についても観測結果と比べた結果、観測されたEs層の大まかな構造は再現されていることが確認された。現在、このモデルを用いて日本付近におけるEs層の水平方向の広がりや運動を調べる研究も進めている[19]。図4は、高度115 kmにおける日本付近のCa+の密度分布である。シミュレーションで再現されたEs層は特徴的な帯状の形を持ち、速い速度で運動をしていることがわかる。図4(a)の中のaとbの場所での鉛直方向のEs層の構造の時間変化を図5に示す。図5の(a)と(b)はそれぞれ図4のa,bの場所に対応している。Es層が水平に移動しつつ下降しているため、一地点で見ると複雑な変動を示す様子が再現されている。この研究によってEs層が必ずしも中性風のシアだけで形成されているのではないことも明らかになった。高度110 km以上の領域では主に中性風のシアによって金属イオン層が形成されるが、その層が下降するに従って、中性風のシアの位置からは外れ始め、むしろ中性風に流されつつ変化していくことがわかった[19]。このことは従来考えられてきた「ウインドシア理論」が必ずしも当てはまらない場合があることを強く示唆しており、Es層の研究において極めて重要な発見である。図3(a) 2015年12月8日北緯35.7度、東経139.8度で、3次元シミュレーションで得られたCa+密度の高度分布の時間変化 (b) 同じ日、同じ場所でライダー観測によって得られたCa+密度の高度分布の時間変化図43次元シミュレーションで得られた2015年6月18日の日本付近の高度115 kmでのEs層の水平分布の時間変化 カラーコンターは密度を表し、白の点線は東向きの中性風速度を表す。512-5 スポラディックE層の再現

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