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GAIAと局所モデルを組み合わせた3次元シミュレーションモデルを用いることによって、同じ日時に実際に観測されたEs層の基本構造の再現に成功した。しかし、細かい構造や変動に関してはまだ十分に再現されているとは言えない。特に、実際にイオノゾンデなどで観測されたEs層の電子密度は時間的に大きく変動しているのに対し、シミュレーションのEs層の電子密度は変化がゆるやかである点が大きく異なっている。この違いについては、以下のようないくつかの原因が考えられる。(1)GAIAで計算された大規模な中性風の誤差(2)GAIAの分解能では取り扱えないスケールの小さい大気波動の影響(3)背景の金属原子の量と分布の不確定性(4)局所電離圏モデルの境界条件の不確定性(5)電離圏電場の影響Es層の再現精度の向上のためには、モデルの高精度化と検証を行うとともに、物理パラメータの与え方の検討も行っていく必要がある。また今後、イオノゾンデ観測や衛星観測などの発展によってさらに多くの情報が得られる可能性があり、モデルと観測との比較及びデータ同化モデルの開発が重要となると思われる。Es層の数値予測全球大気圏–電離圏モデルGAIAは、リアルタイムで計算を実行しつつ、数日先までの予測計算を行うことができる。まだ誤差は大きいと考えられるが、電離圏E領域の中性風の予測も可能となっている。GAIAによって予測された中性風を入力としてEs層の3次元シミュレーションモデルを実行すれば、Es層を予測することも原理的には可能である。しかし、前述のように現実にはまだ様々な不確定要素があるため、シミュレーションによって直接Es層の予測を行うにはさらに多くの検討と改良、検証が必要である。一方、厳密なシミュレーションを行わずに比較的簡便な方法でEs層の強度や発生を予測する方法が提案されている[20]。これは式(6)で表される近似的な鉛直イオン速度を用いて鉛直方向のイオン収束率(Vertical Ion Convergence、以下VIC)を求め、これをEs層の強度(foEs)の指数とするものである。すなわち、VIC(7)を指標とするものである。実際にGAIAのデータを用いてこの方法で計算したVICとEs層の強度を表すfoEsの比較を行った結果が図6である。ここでは、2009年の国分寺で観測されたfoEsの日平均とGAIAで計算された高度120 kmにおけるVICの日平均を比較した。この結果から、鉛直イオン収束率VICはfoEsと良い相関があることがわかる。季節変化が良く一致しているほか、日変化に関してもおおむね合っている。この一致の理由は、高度120 km付近の金属イオンの収束が大まかにはその後のEs層の大きさを決めているためであると推測される。この手法は日変化に関してはある程度良い予測値を与えるが、より短い数時間程度の時間スケールでみるとfoEsとあまり合っていない。これはGAIAでは取り扱えない小さいスケールの大気波動がfoEsの時4図52015年6月18日の(a) 35.7°N, 139.4°E、(b) 35.7°N, 136.4°Eの場所でのCa+密度の時間変化 コンターは東向きの中性風速度、濃い白線は東西風のシアがゼロのところを示す。(b)の下の図は、Es層の高さが急激に下がった部分を拡大したもの。52   情報通信研究機構研究報告 Vol.67 No.1 (2021)2 電離圏研究

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