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まえがき電離圏の観測を飛躍的に発展させた観測技術の一つに、地上GNSS受信機による電離圏観測がある。電離圏を通過する電波は、伝搬経路上の電子の総数と電波の周波数に依存して、その速度に違いが生じる。その性質を利用すると、GPS衛星などのGNSS衛星から送信される周波数の異なる2つの信号から、受信機と衛星を結ぶ経路に沿って積分した単位面積当たりの全電子数(Total Electron Content: TEC)を算出することができる。地上GNSS受信機は国内外に多数展開されているため、それらを用いることで水平方向二次元におけるTECの分布を調べることができる。イオノゾンデなどの従来の電離圏観測機器はその観測点数が限定されている一方、GNSS受信機は測位等の目的で多数設置されることが多いため、その観測点数は従来の電離圏観測機器に比べ桁違いに多い。そのため、GNSS受信機網データを用いると、これまでの「点」のみの観測が「面」としての観測となり、部分的にしか観測できなかった電離圏現象の全体像を捉えることが可能である。全球TECマップはいくつかの機関により作成されており、IONEX(IONosphere map Exchange)と呼ばれる受信機に依存しないデータフォーマットにより提供されることが多い[1]。例えば、CODE(Center for Orbit Determination in Europe)によって提供されている全球TECマップは、経度5度・緯度2.5度の空間分解能と2時間の時間分解能を持つ[2]–[4]。IONEXによる全球TECマップは、水平方向1,000km規模の構造を捉えることができ、全球規模での電離圏変動の解明に寄与してきた[5][6]。一方で、高度な衛星測位に影響を与えるプラズマバブルや中規模伝搬性電離圏じょう乱(Medium-Scale Traveling Iohspheric Disturbances: MSTID)と呼ばれる電離圏現象は水平方向100km程度の構造を持つため、IONEXのような時間・空間分解能では捉えられない。文献[7]では、国内に多数展開されている受信機網データを収集し、高解像度でTEC二次元観測を実現、水平方向数百km規模の構造を持つMSTIDの二次元的な描像を捉えることに成功した。我々は、定常的に地上GNSS受信機網データを収集し、高解像度1情報通信研究機構(NICT)では、電離圏の状況を把握するため、国内外の地上GNSS受信機のデータを収集し、GNSS衛星と地上受信機を結ぶ経路に沿って積分した単位面積あたりの全電子数(TEC)を算出、高解像度TEC二次元観測を実施している。この高解像度TEC二次元観測を用いると、これまでの限られた場所における観測で断片的にしか捉えられなかった電離圏の現象の全体像を捉えることが可能となる。我々は、このTEC観測を用いて様々な電離圏現象を明らかにしてきた。また、宇宙天気情報としてリアルタイムにTECと電離圏嵐に関する情報を発信するシステムの構築を進めてきた。さらに、高解像度TEC二次元観測をより広範囲に拡張するためのプロジェクトを立ち上げ、TECデータの標準化や各種ツールの開発、データ共有等に取り組んでいる。In order to monitor the ionosphere, NICT collects GNSS receiver data in Japan and overseas and calculates ionospheric Total Electron Content (TEC), which is integrated electron density along the path between GNSS satellites and receivers. TEC is projected onto two-dimensional map re-sulting in high-resolution TEC maps due to the large number of ground-based receivers. Using the high-resolution TEC maps, we have clarified various ionospheric phenomena. We also have devel-oped to provide the information on TEC data and ionospheric storms. In addition, we have con-ducted a project to extend the high-resolution TEC observations to a wider area.2-6 GNSS受信機を用いた電離圏全電子数の高解像度二次元観測2-6High-resolution Observation of Ionospheric Total Electron Content by GNSS Receivers西岡未知 津川卓也NISHIOKA Michi and TSUGAWA Takuya552 電離圏研究

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