TEC二次元観測を行うことで電離圏監視を行っている。本稿では2で、国内の高解像度TEC二次元観測の概要とそれによって捉えられた電離圏現象について紹介し、さらに、宇宙天気情報として発出しているTECデータについて解説する。3では、国外における高解像度TEC二次元観測の概要を紹介し、さらに観測視野を拡大するために行っているDRAWING-TEC(Dense Regional and Worldwide International GNSS TEC observation)プロジェクトについて紹介する。国内における高解像度TEC観測2.1GEONETによる高解像度TECマップ日本国内では、国土地理院がGNSS Earth Observa-tion Network System(GEONET)と呼ばれるGNSS受信機網を展開しており[8]、約1,300観測点において連続観測を実施している。NICTでは、国土地理院のFTPサイトにて公開されている全観測点の30秒値RINEX(Receiver INdependent EXchange format)データを1時間ごとに取得し、TECを算出、数種類の高解像度TECマップを作成している。作成されたTECマップは、準リアルタイムデータとして約2–3時間遅れで公開している[9]。これらTECマップは、緯度0.15度、経度0.15度の分解能、つまり数十kmの高空間分解能であり、水平方向数百 km規模の現象を捉えるための十分な空間分解能を持つ。さらに、NICTでは、国土地理院から数日遅れで公開される確定版RINEXも同様に処理することで、より精度の高い確定版TECマップも提供している[10]。現在NICTで作成・公開している高解像度関連TECマップには、TECの衛星・受信機バイアスを除去した絶対値TECマップ、60分以下、30分以下、15分以下のTEC変動マップ、ROTI(Rate of TEC change Index)と呼ばれる電離圏じょう乱指数マップ、GPS信号ロック損失率マップ、の6種類がある。60分以下、30分以下、15分以下のTEC変動マップは、それぞれの衛星–受信機間で算出したTEC値から各時間幅の移動平均を除去することで求められる。それぞれの変動成分は、衛星–受信機間の経路が電離圏高度を貫通する点に投影される。全ての衛星–受信機の組み合わせに対して本処理が行われることで、高分解能のTEC二次元マップが作成される。なお、NICTで作成される高解像度TECマップは、衛星–受信機の経路の電離圏での長さを鉛直の経路長に補正し、鉛直方向に積分したTECに換算して表示されたものである。図1は60分以下のTEC変動成分マップの一例で、北西–南東方向に多数の波面を持った構造を持つMSTIDが顕著に捉えられている[11]。このようなTEC変動マップを用いて、これまで、日本に出現するMSTIDの特性が明らかにされている[12]–[14]。TECデータには、衛星と受信機固有のバイアスが含まれるため、絶対値TECを算出するためには衛星・受信機バイアスを推定して除去する必要がある。我々は、TECの1時間の平均値はある範囲内において一定という仮定の下、最小二乗法を用いて衛星–受信機バイアスを算出している[15]。各衛星–受信機間で算出された絶対値TECは、変動マップと同様にマップ化される。絶対値TECマップの例を図2(a)に示す。通常、日本の緯度では、太陽天頂角の小さい南方の方が北方よりもTEC値は大きい。図2(a)は21:20JSTの夜間において、南方で60TECU(1TECU=1016/m2)、北方で20TECUというTEC値が観測されている。一方で、地磁気じょう乱等の影響で電離圏に電場や風系の変化等があると、通常とは異なる振る舞いをすることがある。図2(a)の矢印で示した南北に伸びたTECの減少領域はその一例である。磁気赤道域で発生したプラズマバブルと呼ばれる局所的に電子密度が減少する現象が、地磁気じょう乱起源の強い電場により中緯度まで発達していた[16]。図2(b)に同時刻のROTIと呼ばれる電離圏じょう乱指数のマップを示す。ROTIとは、TECの時間変動の5分間での標準偏差で、水平方向数十 kmの現象を捉えるために広く使われている[17]。図2(a)でTECの減少として見られたプラズマバブルの位置にROTIの大きい領域が存在していることがわかる。これは、プラズマバブルの内部に電離圏電子密度のじょう乱が存在していることを示している。図2(c)は同時刻のGPS信号のロック損失率を示す。GPS信号のロック損失率は、RINEXファイルに記録2図1 GEONETを用いた高解像度TECマップ、60分以下の変動成分マップ[11] 夏の夜間に日本で頻発するMSTIDの観測例56 情報通信研究機構研究報告 Vol.67 No.1 (2021)2 電離圏研究
元のページ ../index.html#62