HTML5 Webook
63/238

されているロック損失指数に基づき、L1またはL2信号が5分間の間でロック損失を起こしたと考えられる割合を示している。GNSSのロック損失は、一般にマルチパスやアンテナ特性によって引き起こされるが、電離圏に水平方向数百m規模の電子密度不規則構造がある場合に、L1やL2信号にシンチレーションが発生して引き起こされることもある。図2(c)で見られたGEONETの多くの受信機のロック損失率の増大は、プラズマバブルの内部に電子密度不規則構造が存在していたことを示唆する。2.2GEONETによって捉えられた巨大地震後のTEC変動国内における高解像度TEC二次元観測を用いて明らかになってきた電離圏現象の一つに、下層大気由来の電離圏じょう乱がある。このような電離圏じょう乱の一つとして、地震や火山後に伴う大気波動が引き起こす電離圏変動が知られており、1960年代より短波のドップラー観測等により報告されてきた[18]–[20]。しかし、これまでの観測では、観測点の数が少なく、現象の全体像を捉えることが難しかった。近年、GPSによるTEC観測の発展とともに、こうした電離圏変動の二次元構造が捉えられ始めてきた[21]-[24]。ここでは、高解像度TEC二次元観測により捉えられた、2011年3月11日14:46JST (5:46UT)に発生した東北地方太平洋沖地震(震央:北緯38.3度、東経142.37度、モーメントマグニチュード9.0[25])後の電離圏変動について紹介する。図3に東北地方太平洋沖地震の(a)3分後、(b)13分後、 (c)68分後に観測されたTECの10分以下の変動成分を示す。図3では、水平方向数十km以上の構造に注目するため、緯度、経度3ピクセルずつで移動平均した値を示している。この時刻の背景の絶対値TECは20-30TECUであり、図3の色で示される+0.2 TECUから-0.4TECUの変動成分は背景の数パーセントに相当する。図3(a)に星印で示される位置は地震の震央を示している[26]。地震発生3分後はまだ電離圏に顕著な変動はないが、地震約8分後には震央付近を中心にTECの変動がみられ、その後、図3(b)から(c)に示すように同心円状の波動が広範囲に広がっていった。この同心円状の波動は、図3(c)の後も観測され続け、西日本では17時JST過ぎまで観測されていた[27]。同心円の中心(電離圏震央)は図3(b)及び(c)の×印で示された震央から約170km南東にずれた場所であり、海底津波計等で推定された津波の最初の隆起ポイントとほぼ一致していたことがわかっている。この同心円状の波動の第一波は、3,475m/sの速度で伝搬していることから、地震波であるレイリー波で励起された音波が電離圏高度まで伝わったものと考えられる。また、第二波以降は秒速数百mの速度で伝搬しており、津波波源の海面で励起された音波が直上の電離圏下部で起こした大気重力波あるいは伝搬する津波波面で励起された大気重力波によるものと考えられる[23][28]–[30]。また、同心円状の波動とは別に、震央付近の東経140–145度の領域で短周期(約4分)の変動も観測された。この短周期変動は同心円状波動が震央付近から離れた16時JSTを過ぎた後も小さい振幅ながら持続している。この短周期変動の周期は、地面・海面と熱圏下部の間の音波共鳴の周期と一致し[29]、複数の波群が混在している特徴も音波伝搬の数値計算で再現された[30]ことから、音波共鳴によるものと推測されている[25][31]。なお、本稿では詳細には取り上げていないが、地震図2 GEONETを用いた高解像度TECマップ (a)絶対値TECマップ、(b)ROTIマップ、(c)ロック損失マップ[11]、矢印の部分がプラズマバブルの位置を示している。572-6 GNSS受信機を用いた電離圏全電子数の高解像度二次元観測

元のページ  ../index.html#63

このブックを見る