HTML5 Webook
64/238

発生後に震央のごく近い範囲でTECの増加と減少が観測されており、従来の観測的研究で断片的に捉えられてきたもの[32]と一致する[31]。さらに、電離圏震央より南西方向に高速で伝搬するTECの構造が2,500 km離れた台湾で観測されていること[33]、6,000 km以上離れたハワイにおいても電離圏変動が観測されていること[34]など、地震・津波に伴う電離圏の変動は全球的に及んでいたことがわかってきている。2.3電離圏嵐基準の策定ここまでは、電離圏の変動成分や水平方向100km規模の電離圏じょう乱に焦点を当ててきたが、宇宙天気情報としては、変動成分に加えて絶対値TECの情報も重要である。一般に、絶対値TECなど電離圏の状態を表すパラメータは、太陽活動度や地方時、緯度によって変化するが、特に地磁気じょう乱等が原因で通常と大きく異なる状態となることは「電離圏嵐」と呼ばれ[35]、宇宙天気情報ユーザーにとっては注意すべき情報となっている。電離圏以外の宇宙天気現象である太陽フレアや地磁気じょう乱は、その指数が明確に定義されている。一方、電離圏嵐にはこれまでそのような指数はなく、宇宙天気情報として発出するためには、電離圏嵐の基準の定義が必要となる。そこで、文献[36]では、18年分のTECデータを統計的に解析し、太陽活動度・季節・地方時・緯度変化等を考慮した上での電離圏嵐指数を定義した。実際には、太陽活動度・季節・地方時・緯度に依存しない指数Pを考案し、指数Pの分布を調べた。指数Pの分布に従い、絶対値TECが通常より大きくなる「正相嵐」及び小さくなる「負相嵐」それぞれについて、1か月に数回起こるレベル(レベル1)、1か月に1回起こるレベル(レベル2)、1年に1回起こるレベル(レベル3)について指数Pを調査した。その結果を踏まえ、正相嵐と負相嵐それぞれについてのレベル1からレベル3の6レベルに静穏レベルを加えた7レベルに分類した。図4は2019年5月11日から16日の6日間の電離圏パラメータの時系列変化を示している。上段はイオノゾンデで観測されたF領域の臨界周波数[37]、中段は北緯37度における絶対値TEC、下段は地磁気じょう乱指数の一つである柿岡K指数である[38]。上段と中段においては、赤線で観測値を示しており、黒線で示す参照値(過去27日間の中間値)からの乖かい離りがどれくらいあるかで電離圏嵐のレベルが決まる。P指数を元に策定した電離圏嵐の基準「I-scale」はグレースケールで表され、色の濃い順にレベル0、レベル1、レベル2、色のついていない部分がレベル3である。観測値(赤線)がそれぞれレベル2あるいは3に2時間以上達していた場合に、図4の上段と中段段に“IP2”と示すようにI-scaleのレベルとともに電離圏嵐があったことを明示する。図4の場合は、5月11日と14日に発生した地磁気じょう乱に伴い、レベル2の正相嵐があったことがわかる。2.4TECデータリアルタイム配信宇宙天気現象をいち早く捉えるため、国内GEONET観測点の一部のストリーミングデータを受信し、2015年より日本上空のTECをリアルタイムで算出し配信する取組を実施している。図5に示すように、GEONETの200観測点のデータに対し、日本測量協会/データ配信業者の配信サーバから閉域網VPNを経由し、NICT本部(小金井)でストリーミングデータを受信している。NICT本部内に設置されている受信サーバ及び解析サーバを用いてほぼリアルタイムにTECを算出、各種マップを作成、公開している[39]。このTECのリアルタイムデータは準リアルタイムデータと共に、宇宙天気情報として活用されている。図3 東北地方太平洋沖地震の(a)3分後、(b)13分後、(c)68分後の10分以下のTEC変動マップ[25]58   情報通信研究機構研究報告 Vol.67 No.1 (2021)2 電離圏研究

元のページ  ../index.html#64

このブックを見る