DRAWING-TECプロジェクト3.1国内外の受信機状況GNSS受信機網データを用いた高解像度TEC二次元マップは、電離圏に頻発する水平方向100km規模の現象を捉える上で、また、絶対値TECも含めた宇宙天気情報を提供する上で重要な役割を果たしている。国内のみならず国外においても、CORS [40]やUNAVCO[41]など複数の機関によって多数のGNSS受信機データが提供されており、それらのデータを用いることで、広域で高解像度二次元TEC観測が可能となる。NICTでは、名古屋大学等と協力し、オンラインで利用可能な国内外機関のGNSSデータを収集してきた。収集されたGNSSデータの観測点数は、2000年に2,000点以上、2007年に5,000点以上、2011年に7,000点以上と増加し、2019年時点で8,600観測点に上る。図6に2017年時点においてデータ利用可能なGNSS受信機の分布を示す。収集されたGNSS受信機データは、国内でのTECマップと同様の処理を経て、図7に示す領域ごとの絶対値TECマップ(上段)、TECの変動成分マップ(中段)、ROTIマップ(下段)へ変換されている[42]。ヨーロッパ及び北アメリカでは、日本と同様、受信機が稠ちゅう密みつに配置されているため、高解像度のTECマップの作成が可能である。 図8はヨーロッパ(a)及び北アメリカ(b)におけるTEC変動成分マップで捉えられたMSTIDであり、その特性解明等の研究が進められている[43][44]。また、全球TECマップを用いた地磁気じょう乱時電離圏変動についての研究等も進んでいる[45][46]。3.2高解像度TECマップで捉えられた巨大積乱雲による同心円構造本章では、2.2同様、高解像度TEC二次元観測を用いて、初めてその全体像が捉えられた現象について紹介する。2013年5月20日にアメリカオクラホマ州ムーア市で巨大な竜巻が発生した後に観測された電離圏じょう乱である[47]。ムーア市(北緯35.2度、西経97.7度)での竜巻発生時刻は、19:45UT(現地時間14:45)で、その規模は、竜巻の規模を示す改良藤田スケール(EF)で最大レベルのEF5であった[48]。図9は北アメリカの20分以下のTEC変動成分マップで、竜巻発生15分後(a)、更に1時間から3時間後(b-d)のものである。+0.1TECUから-0.2TECUの変動は背景のTEC値1–2 %程度の変動に相当する。図9(a)の星印は、19:45UTに巨大な竜巻の発生が報告されたムーア市の位置である。図9(a)にはまだ顕著なTEC変動は見られないが、図9(b)には、×印で示した位置を中心とした数個の同心円状のTEC変動の構造が現れている。このような同心円状の構造は図9(c)及び図9(d)も続いて現れた。19:45UTにムーア市で発生したEF5の竜巻の原因となった巨大積乱雲が、アメリカNOAAの気象衛星GOES-13の赤外線観測によって捉えられており、その位置が同心円状の構造の中心に一致していることがわかった。巨大積乱雲の位置の南への移動に伴い、同心円上の構造の中心の位置も同様に南に移動していることから、観測された同心円状のTEC変動の構造が巨大積乱雲起源であることが推測される。文献[47]では、高度約300kmの電離圏で観測された同心円状の構造が大気3図6 国内外でデータ利用可能な地上GNSS受信機網[11]60 情報通信研究機構研究報告 Vol.67 No.1 (2021)2 電離圏研究
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