な地域は、現状図6に示すように、主にヨーロッパ・北アメリカ・日本と限定的である。更に広域でMSTIDやプラズマバブルなど水平方向100km規模の電離圏現象を捉えるためには、日本以外のアジア地域、アフリカ地域、その他、赤道域や極域のGNSS受信機データが必要であるが、これらの地域でデータを十分に収集することが難しい。その理由の一つとして、国やデータ提供機関におけるGNSSデータの公開ポリシーがある。一般に、GNSS受信機データには、精密測位、気象観測、電離圏観測などに利用可能で、商業的にも軍事的にも非常に価値の高い位相・疑似距離情報が含まれているため、RINEXデータの公開に制限がある可能性が考えられる。この問題を解決するために、NICTでは、DRAWING-TECプロジェクトを立ち上げ、以下の課題に取り組んでいる。1. 高解像度TECマップのためのデータフォーマットの策定と標準化2. 標準化されたTECデータ及びマップ作成技術の開発3. 標準化されたTECデータの共有「1.高解像度TECマップのためのデータフォーマットの策定と標準化」に関しては、RINEXフォーマットをベースとしたTEC情報のみを記載した新たなデータフォーマットGNSS-TEC EXchange(GTEX)を提案し、その標準化を進めてきた。GTEXは、RINEXフォーマットと同様に、受信機ごとに1ファイルとし、エポックごとの衛星–受信機間のslant TECを記載するフォーマットである。RINEXデータをGTEXデータに変換することで、位相・疑似距離情報等が除外されるため、より公開ポリシー問題のハードルを下げることが期待できる。GTEXフォーマットは、2013年に国際電気通信連合の無線通信部門(ITU-R)において提案され、2015年に電波伝搬に関わる電離圏データの標準データフォーマットの一つとして認められ、ITU-R勧告に掲載された[49]。「2.標準化されたTECデータ及びマップ作成技術の開発」については、RINEXデータからGTEXデータを作成するソフトウェア及びGTEXデータから高解像度マップを作成するソフトウェアを作成している。前者については、Linux/Unix版に加え、Windows版も作成している。現在、GPS以外のGNSSデータを扱うためのGTEXデータフォーマットの改訂や、それに伴うソフトウェアの改修も行っている。「3.標準化されたTECデータの共有」は、広域の高解像度TEC二次元マップ作成のために最重要と考える。NICTでは、特に日本における電離圏変動予測に図9 巨大竜巻発生(a)15分後、(b)1時間15分後(c)2時間15分後(d)3時間15分後に観測された20分以下のTEC変動成分[47]62 情報通信研究機構研究報告 Vol.67 No.1 (2021)2 電離圏研究
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