重要なアジア・オセアニア地域に主軸を置き、GTEXデータの共有を進めてきた。図10は、その成果の一つで、マレーシアのGNSS受信機網(MyRTKnet)等東南アジア域のGNSS受信機網データからGTEXデータを作成し、ROTI二次元マップとして可視化したものである[50]。楕円で示すようにROTIの大きい領域が南北に伸びており、電子密度じょう乱を内包するプラズマバブルの存在が捉えられている。東南アジア域の様々な国でRINEXやGTEXデータのシェアが進み、高解像度の電離圏二次元マップが利用できるようになれば、プラズマバブルの発生・伝搬の正確な把握に繋がり、東南アジア域のみならず、日本に影響を与えるような発達したプラズマバブルの現況把握・予測精度向上にも大きく貢献できると考えられる。まとめと今後の展望近年の高度ICT社会において、通信・放送・測位などに影響を与える電離圏の監視・予測やその情報の利用はますます重要となっている。密なGNSS受信機網を利用したTECの二次元観測は、高い空間解像度で広範囲に電離圏が連続観測できるため、電離圏監視の手法として必要不可欠である。日本やヨーロッパ、北アメリカなどの受信機が稠密に展開されている地域においては、MSTIDやプラズマバブルなど水平方向100 km規模の電離圏じょう乱も明確に捉えることが可能である。一方で、日本以外のアジア・アフリカ地域、その他、赤道域や極域では利用可能なGNSS受信機網データが不足しているのが現状であり、DRAWING-TECプロジェクトを通じて、高い空間分解能の観測の範囲を全球に拡張していくことが課題である。今後の取組として、日本上空のみならず全球を含む国外のTEC情報のリアルタイム発信も重要である。国際民間航空機関(ICAO)において、宇宙天気情報の本格利用が開始され、NICTはグローバル宇宙天気センターの一員としてデータ提供を行っている。現在リアルタイムで衛星測位に関わる電離圏情報としてデータ提供を行っているものは、GEONETに基づく日本周辺のTEC情報のみであるが、今後は全球のTEC情報についてもリアルタイムで作成・配信し、宇宙天気情報として提供していくことが求められる。高解像度TEC二次元観測は、宇宙天気情報の提供という実用面のみならず、学術的にも重要な役割を果たしている。電離圏じょう乱を引き起こす主な原因としては、太陽の活動やそれに伴う地磁気じょう乱であることはよく知られているが、電離圏よりも下層に位置する大気からの影響も無視できないことが明らかになってきた。本稿の2.2及び3.2で紹介した2例は、高解像度のGNSS-TEC観測により、これまで現象の一部しか捉えられなかった下層大気由来の電離圏じょう乱の全体像を初めて詳細に捉えた事例である。巨大地震や極端気象現象に伴う電離圏変動の観測は、下層大気の変動と電離圏変動の因果関係が明確であるため、まだ未解明な点が多い両者の関係を明らかにする研究の貴重な情報となる。このように、GNSS受信機網を利用した電離圏観測の広域化と高解像度化を進め、これまで未解明であった物理現象の解明にも貢献していきたい。謝辞現在、宇宙天気に関わるGNSS-TEC観測業務は、総務省からの委託業務「電波伝搬の観測・分析の推進」に基づき実施されております(R1-0155-0112, R2-0155-0133)。GNSS受信機のデータ提供はGEONETの他、GSI, UNAVCO, IGS, SOPAC, CORS, EPN, BKGE, OLG, IGNE, DUT, ASI, ITACYL, ESEAS, SWEPOS, NMA, BIGF, MyRTKnet, and SuGArの機関より受けております。RINEXのデータ収集や高解像度TECマップの作成に当たっては、名古屋大学の大塚雄一准教授と新堀淳樹研究員及び京都大学の齊藤昭則准教授の協力を得ています。また、リアルタイムGNSSデータを利用した電離圏観測には電子航法研究所の斎藤享上席研究員に多数の助言をいただきました。心より感謝申し上げます。4図10東南アジア地域のROTIマップ[50] プラズマバブル内部の電子密度じょう乱が捉えられている。632-6 GNSS受信機を用いた電離圏全電子数の高解像度二次元観測
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