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宇宙天気とは近年、我々の生活は通信衛星、放送衛星、気象衛星、GPS衛星など宇宙空間を利用した社会インフラシステムに依存するようになってきている。GPS衛星による精密測位や電離圏による反射を利用した長距離無線通信においても、宇宙環境の影響を電離圏のじょう乱を通して受ける。また、国際宇宙ステーションや民間会社による宇宙旅行計画など人類が宇宙空間を訪れる機会も徐々に増えつつある。図1は、太陽から到来する現象と地球周辺の宇宙空間の構造をまとめるとともに、そのじょう乱が社会影響に至る過程を示している。太陽からは「太陽風」という常に吹き出されるガス(プラズマ)流があり、地球に到来する太陽風は絶えず変化している。さらに太陽の大気「コロナ」では、時折「太陽フレア」と呼ばれる大規模な爆発現象が発生し、X線・紫外線をはじめとした広範囲の波長帯の「電磁波」が増加するとともに、太陽放射線(宇宙線)と呼ばれる「太陽高エネルギー粒子(Solar Energetic Particle: SEP)」が放出される。さらにはコロナガス(プラズマ)が大規模に放出される「コロナ質量放出(Coronal Mass Ejection: CME)」現象が発生し、惑星間空間を流れる太陽風の中を膨張しながら太陽から外に向かって伝でん播ぱする。このように電磁波・放射線・プラズマ流(太陽風・CME)の3種類の現象として太陽からの影響が地球に到来する。一方で地球では通常は地球の磁場や大気がこれらの影響に対するバリアの役割を果たしている。地球の磁場によって太陽風プラズマの侵入が妨げられている空間を「磁気圏」という。また高層大気による吸収によってX線・紫外線や高エネルギー粒子の地表への到達を防いでいる。紫外線の吸収などの効果で一部の粒子が電離された状態で存在する層があり、これを「電離圏(電離層)」という。磁気圏には「放射線帯」という、高エネルギーの粒子(静止軌道付近の組成は主に電子)が地球の磁場に捉われて存在する領域がある。太陽から地球に到来するじょう乱の強度や太陽風中の磁場の向きなど諸条件によっては地磁気のバリア機能が低下し、地球周辺の宇宙環境にじょう乱が引き起こされる。例えば、ある一定の値よりも高いエネルギーをもつ太陽放射線粒子は、磁気圏に侵入し、宇宙飛行士の被ばく、衛星の半導体機器の誤動作や太陽電池劣化を引き起こす(図1)。放射線帯の高エネルギー電子が増加すると静止衛星の帯放電頻度が上昇し衛星1図1 宇宙環境じょう乱の発生と障害前回、宇宙天気予報特集号を発行した2010年以降、様々な要因により宇宙天気の社会的な必要性が急激に増大してきた。この期間における宇宙天気研究及び宇宙天気予報業務をめぐる国内外の動向及びNICT宇宙環境研究室が行ってきた研究活動について概観する。The necessity of space weather research and operation has been steeply increased since 2010 with various factors. This paper shows domestic and international stream related to space weather research and operation, and the related activities of space environment laboratory, NICT.1 緒言 宇宙天気研究の現状と展望1Introduction: The Status and Future Aspect of NICT Space Weather Research and Operation石井 守ISHII Mamoru11 緒言 宇宙天気研究の現状と展望

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