される対策について述べる。さらに、2018年から開始されたICAO宇宙天気情報サービス[3][[4]の航空航法の高度利用の可能性についても議論する。衛星測位(GNSS)と誤差要因GNSSにおいては、複数の衛星から放送される信号の伝でん播ぱ時間を測定し衛星との距離を測定することにより、受信アンテナの位置と受信機の時刻を決定する。すなわち、3次元位置と時刻を決定するため、4個以上の衛星の信号を同時に受信する必要がある。一般的に、信号を受信する衛星数が多く、天球上に均等に分布しているほど測位誤差が小さくなる。GNSS衛星からは、それぞれの周波数ごとに擬似ランダムコードで変調された信号が放送されており、GNSS受信機はそれらを用いて衛星と受信機の間の距離を測定する。測定された距離には様々な誤差が含まれており、コード変調を用いて測定した擬似距離(コード擬似距離、 )及び搬送波位相の積算を用いて測定した擬似距離(位相擬似距離、 )は以下のように表せる。 ここで、 はGNSS信号の波長、 は真空中の光速、 は幾何学的距離、 は電離圏の屈折率が真空と異なることによる伝播遅延誤差(電離圏遅延)、 は対流圏の屈折率が真空と異なることによる伝播遅延誤差(対流圏遅延)、 及び はそれぞれ受信機、衛星の時計誤差、 及び はそれぞれコード擬似距離、位相擬似距離のランダム誤差(地面や周囲の物体による反射に伴うマルチパス誤差、熱雑音など)、 は位相の整数値不定性である。ここで、受信機時計誤差 は、幾何学的距離 に含まれる受信機(アンテナ)位置とともに推定される値である。これらのうち、対流圏及び電離圏の遅延が伝播経路に起因するものである。対流圏遅延はモデルによる補正が比較的有効であるが、電離圏遅延は変動が大きく、衛星測位において大きな誤差となり得る。電離圏遅延による誤差は電波の周波数( )の2乗に反比例し、衛星と受信機の間の単位面積当たりの全電子数( )に比例する。40.3 GPS L1周波数においては、1TECU(1 10 )あたり0.16mとなる。GNSSを用いた測位の最終的な目的は、受信機(アンテナ)の位置と時刻を求めることである。位置と時刻は、衛星ごとの測距結果を4つ以上用いて、最小二乗法などにより最適な解として得る。この時、位置と時刻(4要素縦ベクトル)と測距データ( (衛星数)要素縦ベクトル)は、衛星配置によって決まる4 行列(S行列と呼ばれる)で結びつけられる。したがって求めた位置と時刻の誤差(測位誤差)は、衛星ごとの測距誤差を、S行列を用いて変換したものとなる。すなわち、測位誤差は衛星配置によって異なる。S行列の要素の値は全体の衛星配置と個々の衛星の位置によって決まり、ある衛星の測距誤差が である場合、その衛星による誤差の寄与は に対応するS行列要素を掛けたものとなる。S行列は衛星位置の関数となっているので、衛星軌道情報の誤差による衛星位置誤差がS行列を通して誤差要因として入ってくる。行列の要素の値は通常の衛星配置でも1以下のものから3程度まで存在するので、衛星によっては測距誤差の値よりも測位誤差への寄与分が小さい場合と逆に数倍に増幅されて大きくなる場合があり得る。この効果は、一般的には使用可能な衛星数に大きく依存するので、使用可能な衛星を十分確保することはGNSS測位において非常に重要である。電離圏のGNSS測位への影響は、これまで述べてきたような遅延効果だけではない。電離圏に不規則構造(GNSS信号の場合300〜400 mの空間スケールを持つもの)が存在する場合、フレネル回折により地上に干渉パターンが生成され、受信される信号強度が不規則に変動する。これを電離圏強度シンチレーションと呼び、磁気低緯度のプラズマバブルに伴うものが主である。一方、磁気高緯度地域では、電離圏不規則構造が高速で衛星信号の伝播路を横切ることによる、搬送波位相の不規則な揺らぎが発生する。これを電離圏位相シンチレーションと呼ぶ。いずれの電離圏シンチレーションも受信機の信号追尾を難しくし、測距精度を低下させ、更に強い場合は衛星信号の追尾を途切れさせる。これは、1周波、2周波を問わず影響が発生する。先に述べたように、測位に使用可能な衛星数が減少すると測位精度が劣化するので、電離圏シンチレーションは使用可能衛星数の減少を通して測位精度の劣化の原因となる。航空航法におけるGNSSの安全利用と電離圏 航空航法では、GNSSを用いた航法について国際技術標準が定められており、その中で、上で述べたような精度だけでなく安全性に関わる基準が定められている。航空航法では安全性が特に重要であり、飛行フェーズによって異なるが1-10-7〜1-10-9(99.99999〜2368 情報通信研究機構研究報告 Vol.67 No.1 (2021)2 電離圏研究
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