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ムは、誤差要因ごとに図2に示すような補正・除去を行ったのちの潜在誤差を評価しなければならない。そのためには、それぞれの誤差要因の振る舞いの特性をあらかじめモデル化しておく必要がある。これを脅威モデル(Threat Model)という。先に述べた電離圏シンチレーションは、衛星数の減少を通して保護レベルの増大につながり、補強システムが使用可能な時間率(可用性、Availability)を減少させる。GBASにおける電離圏脅威モデル本節では、GBASを例にとり電離圏に関する脅威モデルについて述べる。DFMC対応GBASは国際標準が策定中の状況であり、現在利用可能なGBASは1周波GPS/GLONASS信号を用いるもののみである。したがって、電離圏に起因する誤差は地上の基準局の観測値によって補正される必要があり、空間的な変動による補正誤差をあらかじめ見積もっておく必要がある。電離圏は常に何らかの空間変動を伴っている。電離圏静穏時においては、日本付近では基準局から1km離れるごとに、L1周波数の遅延にして数mmであることがわかっている[10]。この値は保護レベル計算において大きな問題になる値ではない。しかしながら、プラズマバブルなどの電離圏じょう乱が発生した場合には、静穏時に比べ桁違いに大きな電離圏遅延の空間変動(電離圏勾配)が発生することが知られている。例えば、日本では1 kmあたり540mmの変動が記録されている[11]。電離圏じょう乱時の大きな電離圏勾配を、静穏時と同様に保護レベルで対応する場合、保護レベルが桁違いに大きなものとなってしまい、GBASの可用性が損なわれる。そこで、GBASにおいてはじょう乱時に相当する一定以上の電離圏勾配の影響を受ける衛星を検出し、航空機がそれを用いないように排除するインテグリティモニタ(電離圏モニタ)を備えている。インテグリティモニタを安全かつ可用なものとして設計するにあたっては、電離圏じょう乱に伴う電離圏勾配がどのような振る舞いをするか、あらかじめ調べてモデル化しておく必要がある。空港周辺の限られた範囲を対象とするGBASにおいては、無限に長い波面状の電離圏勾配を想定し、それを図4に示すパラメータで特徴付ける。ICAOでは、着陸までの誘導を実現するカテゴリーIII GBAS(GBAS Approach Service Type D: GAST-D)の技術標準の策定においてその実現可能性を検証するため、欧米の磁気中緯度地域のデータに磁気低緯度地域のデータを一部加えて電離圏脅威モデルを策定した[2]。表1に、GAST-D検証用電離圏脅威モデルの値を示す。電離圏勾配の特性は、原因となる電離圏現象によって異なり、磁気低緯度地域においてはプラズマバブルが主な勾配の要因である。一方で、全世界共通の電離圏脅威モデルを作成すれば、一部の地域では保守的すぎるなどの問題が発生する。そのため、電離圏脅威モデルは、その原因となる電離圏現象の特性が同様と考えられる範囲内で、地域特性を反映することが望ましい。ICAOアジア太平洋地域では、地域内の電離圏勾配データを収集し解析することにより、アジア太平洋地域内の磁気低緯度電離圏に適用可能な電離圏脅威モデルが構築された[12]。図5は、アジア太平洋地域内で観測された電離圏勾配の大きさ(g)を、それが観測された衛星の仰角の関数として表したものである。全体的に勾配は仰角が高いほど小さく、仰角が低いほど大きい傾向が見て取れる。これらの中で最大の電離圏勾配は、GAST-D検証用電離圏脅威モデルの上限値である500 mm/kmを超4パラメータ値の範囲幅(w)25〜200 km変動幅(D)0〜80 m移動速度(v)0〜1500 m/s勾配(g)移動速度による移動速度勾配最大値v < 750 m/s500 mm/km750 ≤ v < 1200 m/s100 mm/km表1 GAST-D検証用電離圏脅威モデルパラメータ値[2]図3 GBASにおける電離圏空間変動の影響図4GBAS電離圏脅威モデルの構造とパラメータ 紙面方向に無限に長い波面状の電離圏勾配の断面を示す。70   情報通信研究機構研究報告 Vol.67 No.1 (2021)2 電離圏研究

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