えている。図中の点線(C1, C2, C3)は、それぞれ垂直遅延量300、341及び400 mm/kmに対して、電離圏を高度350kmに存在する薄い層と仮定した場合の垂直遅延量から斜め遅延量への換算係数を乗じたものを示している。プラズマバブルが通常の電離圏に空いた空隙であることを考えると、電離圏勾配が仰角に対して傾斜係数の関数の形をとることは合理的である。しかしながら、仰角77度において1点だけ349mm/kmの電離圏勾配がインド(Hydelabad)において観測されている。極めて高い安全性が要求される航空航法において、最悪ケースを全て保護するという考え方によれば、1点であっても想定範囲を超えるデータを見逃すことはできない。このデータを一定の余裕を持って保護するためには、傾斜係数の関数とする場合、図3中のC3の曲線のように、中低仰角において観測されたデータに対して極めて大きな電離圏勾配の上限値を与えることになり、保守的すぎると考えられる。一方、観測データ数自体が限られており、また傾斜係数以外に適当な物理的根拠を持つ関数が現状では考えにくいことから、ここでは全ての観測データを保護することができるものとして、仰角によらず600mm/kmを上限値として採用された。今後、多くの解析データの蓄積により、この上限値の検証を行い、可能であれば脅威空間の合理的な削減を行っていく必要がある。このICAOアジア太平洋地域共通GBAS電離圏脅威モデルは、地域内において共通して使用可能である一方で、一部の地域では保守的すぎる場合もあり得る。日本は磁気低緯度から中緯度への遷移領域にあり、電離圏勾配の特性も磁気低緯度地域とは異なる部分があると考えられる。また、電離圏脅威モデルについては、勾配(g)だけではなくその他のパラメータも重要であることから、国土地理院のGEONETを用いた電離圏勾配の特性解析が行われている[13]。これらの成果は、現在東京・羽田空港において試験中の実用GBAS装置の安全性設計に活用されている。しかしながら、解析例は限られており保守性が高いことから、更なるデータ解析により電離圏脅威モデルの保守性を合理的に削減していく必要がある。これによりGBASの性能向上が期待できる。次世代GNSS航空航法における対策電離圏遅延は周波数に依存するので、異なる周波数の信号を組み合わせることにより、磁場に依存する高次の項を除いておおむね消去することができる。2周波を用いる測位では、一般的に電離圏遅延の項を消去した、電離圏フリー線形結合 が用いられる。ここで、 、 はそれぞれ1番目、2番目の周波数、 、 は1番目、2番目の周波数に対応する擬似距離測定値である。次世代DFMC SBASにおいては、電離圏フリー線型結合を用いられる[14]。電離圏フリー線形結合では、電離圏遅延誤差を消去することができる一方で、上式の分母が周波数の2乗の差になっていることからわかるように、その他の誤差が増幅されるという欠点を持つ。この雑音増大のため、通常時の保護レベルが増大し、安全性要件が厳しい場合には可用性が損なわれることがある。そのため、カテゴリーIII着陸誘導を行うDFMC GBASにおいては、測位は雑音の少ない1周波信号のみを用いて行い、電離圏勾配の検出に2周波信号を用いることが提案され検討されている[15][16]。この場合、1周波GBASの場合と同様に電離圏脅威モデルが必要となるので、継続した電離圏勾配の観測と解析が必要となる。衛星信号の追尾を難しくする電離圏シンチレーションの影響は2周波信号が利用可能となっても回避することができない。2周波信号に依存する場合は、いずれか一方の信号が途切れた場合にその衛星が使用不可となるので、より影響が大きいと言える。一方で、次世代GNSSにおいて複数衛星系が使用可能となることで、使用可能な衛星数が減少する影響は既存のGNSSに比べて抑えることができる。しかしながら、安全かつ可用な航法システムのためには、電離圏シンチレーションの特性、特にその発生頻度、同時に影響を受け得る衛星数などを明らかにしておく必要がある。加えて、電離圏シンチレーションによるインテグリティモニタへの影響も無視することはできない。追尾損失に5図5ICAOアジア太平洋地域共通電離圏脅威モデル[12]C1, C2, C3はそれぞれ垂直遅延量300、341及び400 mm/kmに対して、電離圏を高度350 kmに存在する薄い層と仮定した場合の垂直遅延量から斜め遅延量への換算係数を乗じたもの。712-7 衛星航法を用いた航空航法における電離圏変動の影響と宇宙天気情報の利用
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