至らない程度の電離圏シンチレーションであっても、測距雑音の増加により、各種インテグリティモニタの感度低下につながり得ることが示されている[17]。インテグリティモニタへの電離圏シンチレーションの影響を評価するためには、インテグリティモニタが行っている解析の原理に即した評価指標を用いることが重要である。衛星航法における宇宙天気情報利用の意義静穏時の電離圏空間変動は、GBASやSBASによって十分な精度で補正することができる。実際、石垣島で行ったGBAS飛行実験では、電離圏静穏時の垂直精度の95%値は1.17mであった[18]。むしろ、電離圏起因の誤差の影響は安全性の面に強く現れる。電離圏変動は他の誤差要因に比べ変動が激しいため、1-10-7〜1-10-9の安全性を実現するために、極めて保守的な過程が用いられる。最も保守的な仮定は、常に電離圏異常が存在していると仮定すること、言いかえれば電離圏異常の発生の事前確率を1と仮定していることである。これは、外部システムに依存しない単体の補強システムを目指すために生じるものである。補強システム側がGNSS衛星を用いて監視している「点」以外の電離圏の状態を、定量的な信頼性をもって知ることができないため、保守的に電離圏異常の発生の事前確率を1と仮定するのである。ここが宇宙天気情報の活用が期待できる大きなポイントである。電離圏物理研究のために開発されてきた様々な観測手法により、電離圏勾配の有無を観測することができる。例えば、VHFレーダーを用いることによりプラズマバブルの空間構造を知ることができる。VHFレーダーをGBASのための電離圏監視手法として取り入れるための基礎検討[19]によれば、これによりGBASにおける電離圏起因誤差を低減する可能性が示されている。安全性が要求されるGNSSアプリケーションでは、様々な保守的な仮定がなされていることが多く、宇宙天気情報の利用価値が見いだせる可能性が十分ある。しかし、宇宙天気情報は補強システムにとっての外部システムであるので、宇宙天気情報について定量的な信頼性が必要になることには注意が必要である。言い換えれば、実際に電離圏勾配が存在した場合にこれを見逃してしまう確率を定量化しなければならない。しかし、元々常に電離圏勾配が存在していると仮定している(つまり発生の事前確率が1.0)ので、宇宙天気情報についての信頼性は保守的なものでよく、例えば90%の信頼性(10回に1回は見逃す)としても、補強システムに要求される安全性レベルを1桁緩和することができるのでその効果は大きい。このように、対象とするGNSSアプリケーションの技術背景を理解するとともに、宇宙天気情報に信頼性の概念を取り入れていくことが非常に重要である。むすび本研究では、航空航法におけるGNSS利用について、航空航法に特有の安全性の観点から電離圏の影響と宇宙天気情報の利用について述べた。安全性の観点では、電離圏脅威モデルと呼ばれる、それぞれの航法システムに即した電離圏の振る舞いの特徴づけが重要である。航空航法では、GNSSが航法システムの中心となり、さらにこれまでの1周波GNSSから2周波・複数周波数GNSSに向かって開発が進んでいる。2周波GNSSにおいては、電離圏遅延効果を消去できるものの、要求される航法性能によっては電離圏遅延を消去することに伴う雑音が問題となるなど、電離圏遅延の影響がなくなるわけではない。加えて既存の1周波GNSSユーザーも長期にわたって存在するため、電離圏の遅延効果の特徴づけは引き続き行っていかなければならない。さらに、電離圏シンチレーションの影響は2周波GNSSであっても引き続き重要である。宇宙天気情報は、航空航法に要求される極めて高い安全性に伴う高い保守性を緩和するために利用できる可能性がある。対象とするGNSSアプリケーションの技術背景を考慮した上で、宇宙天気情報に信頼性の概念を取り入れていくことが非常に重要である。参考文献】【1International Civil Aviation Organization, “Global Air Navigation Plan (Doc9750),” 6th Edition, 2019.2International Civil Aviation Organization, “Aeronautical telecommunica-tions,” Annex 10 to the Convention on the International Civil Aviation, Amendment 92, 2020. 3International Civil Aviation Organization, “Meteorological service for international air navigation,” Annex 3 to the Convention on the Interna-tional Civil Aviation, 20th Edition, 2020. 4International Civil Aviation Organization, “Manual on space weather information in support of international air navigation (Doc10100),” 6th Edition, 2019.5RTCA DO-246E Change 1, “GNSS-based precision approach local area augmentation system (LAAS) signal-in-space interface control docu-ment (ICD),” 2019a.6RTCA DO-253D Change 1, “Minimum operational performance stan-dards for GPS local area augmentation system airborne equipment,” 2019b.7RTCA DO-229F, “Minimum operational performance standards for Global Positioning System/Satellite Based Augmentation System air-borne equipment,” 2020.8EUROCAE ED-114B, “MOPS For Global Navigation Satellite Ground Based Augmentation System Ground Equipment to support Precision Approach and Landing,” 2019.9坂井丈泰, 松永圭左, 吉原貴之, 齋藤享, “航空航法における衛星航法の利用と電離圏の影響, “情報通信研究機構季報, vol.55, pp.203–213, 2009.10吉原貴之, 齋藤享, 藤井直樹, “日本におけるGPS衛星電波の局所的な電離圏遅延勾配の背景場の評価,” 日本航海学会論文集, 123号, 2010.11Saito, S. and T. Yoshihara, “Evaluation of extreme ionospheric total 6772 情報通信研究機構研究報告 Vol.67 No.1 (2021)2 電離圏研究
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