護対象となるが、それぞれ個別にセキュリティ対策を施す一方で、ファイヤウォール機能を有するブロードバンドルータによるネットワークセキュリティの一元管理を実施することで対応している。②について、現行可搬型システムの例を挙げると、運用上の必須要件である機器制御とデータ転送に対してPCを1基ずつ割り当てる2基体制で当初スタートしたが、相次ぐCPU処理性能の向上によって、現在では1基のPCに機能集約して運用している。③については、観測サイトで頻発する落雷・停電・瞬停による観測中断や機器故障に度々悩まされており、長年にわたって各観測サイトの立地環境に合わせた対策を講じてきた。本稿では、可搬型の老朽化及び課題②に関連して、現在取り組んでいるSoC(System-on-a-Chip)を用いた次期可搬型FMCWイオノゾンデシステム(以下「次期可搬型」と呼ぶ)の開発状況について報告する。さらに、③に関連して熱帯域に位置するSEALION観測サイトで頻発する雷害への対策についても紹介したい。現行可搬型のデジタル信号処理まず次期可搬型のベースとなった現行可搬型のFPGA (Field-Programmable Gate Array)によるデジタル信号処理に触れたい。利用者が構成を設定できる集積回路として1990年代に広く普及したFPGAは、ハードウェアに依存しないデジタル信号処理回路の製作・実装が可能なPLD(Programmable Logic Device) の代表格であり、現在に至るまでその高い汎用性と柔軟性のために家電製品から研究観測機器まで幅広い用途で使われている。情報通信研究機構(NICT)のFMCW方式イオノゾンデにおいても、1990年代後半からFPGAによるデジタル信号処理回路の集積化が進み、装置の大幅な省スペース化・軽量化が実現して、文字どおりの可搬型FMCWイオノゾンデとしてSEALIONの海外展開に寄与してきた[4]。しかし、これら直接的な恩恵を被る一方で、SEALIONの運用を通じて新たな課題や可能性も表面化してきた。現行可搬型に実装されたSRAM型FPGAは、電源投入のタイミングでコンフィグレーションデータが基板に搭載されたFlashメモリーからFPGAにロードされた後、USB接続された制御PCから現行可搬型のデジタル信号処理インターフェイスとして認識される。つまり、理屈の上では外部からFlashメモリーにアクセスできれば、ハードウェアに手を加えることなくデジタル信号回路の更新が可能であり、運用面でのフレキシビリィティが格段に増す。しかし、可搬型の開発当時、Flashメモリー内のコンフィグレーションデータの更新は、FPGAとJTAGケーブル等で外部接続されたPC上で行われるのが一般的であり、加えてコンフィグレーションデータ作成にも比較的時間を要したため、観測の現場で実施される機会はなかった。インターネットが普及した現在では、ハードウェアを制御するファームウェア搭載の電子機器が普及し、開発元から更新版をダウンロードして機能アップするのが一般的になっているが、SEALION開始当初、現行可搬型では、まだそのようなリモート運用は難しかった。一方、現行可搬型の制御PCが担う機能は、観測スケジュール管理・周辺機器制御・データ格納等、いずれも1990年代後半の汎用PCの能力でも十分対応可能であり、ハードウェア的には、ハイスペック仕様よりむしろ運用面でのメリットの大きい省電力・省スペースなどのロバスト性が求められた。実際、IoT隆盛の2010年代後半には、Raspberry Pi Foundationによって開発されたRaspberry Piなどのシングルボードコンピュータへの換装も検討された。SoC (System-on-a-Chip)プラットホームによるFMCW イオノゾンデシステムの換装 2010年代に入って、Xilinx社のZYNQやAltera社のCyclone V SoCなどProcessing System(PS)(CPU+各種Peripheral)にFPGAのProgrammable Logic(PL)部をSoC(System-on-a-Chip)として統合し1チップ化した新しいタイプの集積回路が登場した。PLブロックのFPGAにデジタル信号処理回路、PSブロックにLinuxなどのOSをインストールしてPSブロックに実装される各種Peripheralに周辺機器制御やネットワーク通信の機能を割り当てれば、現行可搬型のFPGAや周辺機器、観測制御プログラムなどのハード・ソフト両方のリソースを継承して現行可搬型と換装可能な新しいFMCW イオノゾンデシステムをSoCプラットホーム上に構築することができる。これは、観測システム継続を保証する上で必須であるが、加えて以下のように多岐にわたる恩恵がSoC導入から見込める事が判明した。①前述の現行可搬型が抱える運用上の課題の解消②制御プログラムのデータ収集機能の高速化が期待されるSoCチップ内部のPS-PL間バス 現行可搬型の制御PC-USB-FPGA方式を凌りょう駕がする高速データ転送が可能である。③SoC導入による配線減で、機器制御にありがちな基板上配線・ケーブルの物理的接続によって生じるインピーダンスがもたらす信号伝送遅延などの障害発生リスクの低減④システム構成機器の点数減による故障率の低減⑤一部周辺機器も集約した上での省電力化・小型軽2376 情報通信研究機構研究報告 Vol.67 No.1 (2021)2 電離圏研究
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