1.2国際的な観測意義国際電波科学連合(URSI)では、無線通信システムの開発や電波伝搬研究への利用を目的として、世界各地の電離圏観測データを使って国際電離圏標準モデル(IRI: International Reference Ionosphere)を策定し、5年ごとに改訂している。モデルの精度向上には長期にわたって安定した観測データが多地点から提供される必要がある。南極において電離圏観測を60年以上にわたって実施しているのは我が国だけであり、昭和基地における電離圏データは貴重であることから、観測の長期的な継続をURSIのIRIワーキンググループからの要請でデータ提供をしている。また、NICTでは、国際学術連合(ICSU)の勧告により電離圏世界資料センター(WDC for Ionosphere)を運用し、世界各国の電離圏に関するデータを収集・保存・公開している。昭和基地での電離圏データはWDCにも送られ、全世界で学術目的に利用されている。NICTの南極観測で取得した電離圏データは、電気通信分野における国際連合の専門機関である国際電気通信連合無線通信部門(ITU-R)の電波伝搬に関する基礎資料として使われている。南極における電離圏観測2.1初期の電離圏観測(1956~1965年)初期の電離圏観測(1956~1965年)は探検時代と言っても過言ではない手探りの時代であった。第1次・第2次隊では南極観測船「宗谷」の船上及び昭和基地での電離圏垂直観測を試験的に運用した。最初は、電離圏からのエコーが観測されず故障かと思われたが、エコーが観測されない現象により電離圏から反射がないことが判明した。後日正常にエコーが観測され「ホッ」としたというエピソードが残されている。昭和基地での電離圏観測は、図1の越冬隊に参加した第3次隊から本格的に電離層定常観測として開始された[2][3]。2.2中層大気観測計画頃の電離圏観測(1966~2008年)南極観測船「ふじ」が就航した、第7次隊(1966年)2観測項目衛星電波シンチレーション観測衛星回線品質測定短波ドップラ観測NNSS測位誤差測定全電子数観測VLF伝搬測定リオメータ観測オーロラレーダ短波電界強度測定イオノゾンデ全電子数観測VLF伝搬測定オメガ伝搬測定短波電界強度測定中波電界強度測定長波電界強度測定イオノゾンデ西暦1956575859606165666768697071727374757677787980818283848586878889909192939495969798992000010203040506070809101112131415161718192021船上観測基地閉鎖期間基地観測表1 観測項目一覧表図1第3次日本南極地域観測隊越冬隊員 手前右は、若井登(旧電波研究所長)と犬のタロー(南極観測25年誌より)84 情報通信研究機構研究報告 Vol.67 No.1 (2021)2 電離圏研究
元のページ ../index.html#90