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ロラ粒子の降り込みが顕著であるオーロラ帯と呼ばれる領域が存在する。オーロラ帯では、荷電粒子の降り込みによって衝突電離が起こるが、オーロラ粒子降下による電離は、主として分子イオンによって構成されるE領域において生じるため、再結合の時定数が短い。よって、オーロラ帯では、オーロラが出現している領域や時間帯においてのみ電子密度の増大が起こることとなり、電子密度の時空間変動が激しいことが知られている[12]。オーロラ帯よりも極側の極冠域では、冬季には1日中日照がなくかつオーロラも出現しないため、その場におけるプラズマの生成がない。したがって電子密度が非常に低くなることが予想されるが、プラズマ対流の効果によって、極冠域にも高い電子密度の領域が現れることが知られている。オーロラ帯における局所的な電場構造によるプラズマ対流も、電子密度の粗密構造の流れを生じ、シンチレーションに寄与する。電離圏の電離の状態は一般に全電子数(TEC: Total Electron Content)として表される。TECは、測位衛星から受信機までの電波伝搬経路に沿った単位断面積当たりの電子数として定義されており、単位として、[TECU] = 1016 [個/m2]と定められている。垂直全電子数(VTEC: Vertical TEC)とは、TECを観測地点において、鉛直方向に換算した値である。全電子数測定は、電離圏を伝搬する電波の群速度及び位相速度が、電子密度及び周波数に依存することを利用する。具体的には、例えばGPS衛星は、L1帯(1.57542 GHz)及びL2帯(1.2276 GHz)の2周波の搬送波を使って測位信号を送信しているが、この2周波の位相速度遅延と群速度遅延の差を取ることで、経路上の全電子数を計測することが可能となる。シンチレーションを示す指数として、一般にS4とσφがよく用いられる。S4とは、平均信号強度(振幅)で正規化した信号強度変化の標準偏差として求められる。シンチレーション指数の一つとしてよく用いられ、あるひとつの観測波長帯(GPSの場合L1帯)から、50 Hzサンプリングにより60秒間隔で出力している。一方σφは、振幅の変動を表すS4に対して、位相の変動成分の変動値の標準偏差として導かれるシンチレーション指数の一つである。観測された搬送波位相を2次のバターワースフィルタ(ローパスフィルタ)に3度通すことで抽出する。昭和基地における衛星電波シンチレーション観測では、S4とσφに加え、TECや搭載及び鉛直方向の測位誤差も導いている。衛星測位に深刻な影響を与える電離圏じょう乱の現象及び影響の測定を、測位衛星からの信号を受信・分析することによって行い、衛星測位の高精度利活用に資することを目的とする。昭和基地はオーロラ帯の直下に位置し、極域で発生するオーロラ現象が引き起こす、赤道域とは異なる電離圏シンチレーションに適している。物理現象の解明を通して、宇宙天気現象の更なる理解に結びつけるのみならず、ひいては測位高精度化を行う上で基礎データとなり得る。入力信号は、観測記録ソフトウェアによって生データ、RINEX(Receiver Independent Exchange Format)形式のデータ、シンチレーションデータ、TECデータ、測位誤差データとして記録保存されている。昭和基地においては、図12に示すとおり2種類の衛星電波シンチレーション観測システムが動作している。一つは、平成22年度(第52次隊)より順次設置された、GPSのみを対象としたGPSシンチレーション観測システムであり、もう一つは、令和元年度(第61次隊)より順次設置された、GNSSシンチレーション観測システムである。GNSSは、GPS衛星に加えて、GLONASS、図11測位衛星電波の地上における受信と、測位誤差を引き起こすシンチレーションの概要図12昭和基地におけるGPSシンチレーション観測システム(黄色)及びGNSSシンチレーション観測システム(赤色)の設置場所A:電離圏観測小屋に両システムB:管理棟にGPSシステム(黄)、基本観測棟にGNSSシステム(赤)C:重力計室に両システムにそれぞれ設置されている。88   情報通信研究機構研究報告 Vol.67 No.1 (2021)2 電離圏研究

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