図6より高利得の狭ビーム幅アンテナを用いた場合には、すれ違い通信時に高いCNRCNRが期待できることから、通信容量としても極めて高い値を示す一方で、その状態が得られる時間はごく僅かあり、逆に低利得ではあるが広ビーム幅のアンテナを用いた場合には、通信容量は下がる、比較的長い時間その状態を維持できることが分かる。転送可能な全データ容量としては、図6における積分値になりこの事例では両ケースにおいてほぼ同等の値を示すが、実環境を考えた場合には、モビリティ間で必ずしも安定的に見通し環境を維持できるとは限らないことから、極力短時間かつ高容量での通信を目指すことが得策と考えられる。3.2超高周波IoTすれ違い通信のためのモビリティ制御 〜ストップ&ゴーとキャッチアップ&ランデブー〜上述したとおり、直進性の高いミリ波等の超高周波を用いたIoTによるすれ違い通信では、極めて短い通信可能時間を有効に使うことが重要である一方で、自律型モビリティの普及と同時に、直近のモビリティの移動目的やインセンティブとも照らし合わせ、多少の時間であればモビリティを停止させる、移動速度を落とす、ないしは迂回するといったことが許容されるのであれば、積極的に通信可能時間を拡張できる。図6に示した時間中において、より高い通信容量を維持できる位置関係で、双方が移動を停止し、目的とするデータの交換終了を確認後に移動を再開するようにすれば(ストップ&ゴー)何もモビリティ制御を行わないすれ違い通信よりも、大容量のデータを確実に交換できることは自明である。また同図において広ビーム幅アンテナを用いた場合に、すれ違い通信可能時間がおよそ400ミリ秒維持できる見通しを示したが、すれ違い通信が可能なエリア付近で各モビリティの移動速度を低下(減速)させたうえで、やはりデータの交換終了を検知した後に本来の速度での移動を再開するようにすれば(スローダウン&ゴー)、すれ違い通信可能時間を拡張することができて、より大容量のデータ交換を成功させられることも明らかである。上記議論を更に発展させ、データの収集や配信を希望するモビリティが存在する一方で、これに該当するモビリティが上述した停止や減速といったモビリティ制御に対応することが難しい場合の対処方法として、キャッチアップ&ランデブー方式をもっとも有力なモビリティ制御方式として検討中である。本方式では、上記データの収集や配信を希望するモビリティについて一切の移動制御を受け容れる余地のない働くモビリティとして扱いつつ、このモビリティに対して近接し、必要なデータ収集や配信を実施する支援モビリティを想定する。支援モビリティはまず、データの収集や配信を希望する働くモビリティの存在を検出すると同時に、その近未来での活動位置を推定することで、データ収集・配信に関わる支援に向かう。そして、近接することに成功すればその後は働くモビリティの活動を停止させたり、邪魔をすることなく、その動きに合わせてランデブー走行(併走ないしは追尾走行)することで、実質近距離かつ相対的に停止状態の位置関係を維持しようというものである。ミリ波IoT搭載自律型移動サービスロボットを使ったデータ転送実証と「ストップ&ゴー」効果の検証 4.1ミリ波IoT搭載自律型移動サービスロボットを使った見み廻まわりデータお届けサービスの実証実験オフィス・ホテル・病院等のビル内や駅・商業施設等の構内で活躍が期待される様々な業種のサービスロボットの急速な普及展開に着目し、これらサービスロボットが人からの依頼を受け付けて、4Kカメラでの撮影による見廻りを行う自律移動サービスロボット協働型見廻りシステムを、ソニーセミコンダクタソリューションズ株式会社と共同で開発した。同一オフィスビル内における実証実験により、見廻り後の撮影データを短時間かつ非接触で見廻り依頼者の再生装置に転送し、自動再生できることを確認した。図8に、自律移動サービスロボットを用いた見廻りシステムの実証実験の流れ(一例)を示す。① まず、見廻り依頼者は、免許不要920 MHz帯を用いるIoT無線デバイスで、周辺の協力可能な自律移動サービスロボットに見廻りを依頼する。② 次に、依頼を受け付けた見廻り場所zu 近くのロボットは、指定の見廻り場所まで移動し、搭載されている4Kカメラにより撮影を行う。③ 撮影データは、見廻り依頼者の元までロボット自身が運搬し、60 GHz 帯を用いるTransferJet Xを用いるミリ波IoT無線伝送装置(ソニーセミコンダクタソリューションズ株式会社が開発)によって再生装置に無線伝送されて、自動再生される。実験では、見廻り依頼者から86.8m離れた見廻り場所における約1分間の撮影データ(約10 GB)を、最大移動速度毎秒0.8mのロボットが見廻り場所から依頼者の元まで届け、TransferJet Xによってデータ転送が完了するまで、およそ163秒(移動時間129秒、伝送時間34秒)かかることを確認した。この結果はデータ伝送スループットに換算すると、514 Mbps(撮影データ容量を、見廻り依頼者の元に撮影データの転送4100 情報通信研究機構研究報告 Vol.67 No.2 (2021)4 NICT総合テストベッドの新たな可能性に向けた研究開発
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