1.2提案手法本稿では、ミリ波帯無線通信規格と920 MHz帯無線通信規格をそれぞれデータプレーン、制御プレーンとして用いた異種無線すれ違い通信に基づくPiggy-back Network上で、センシングデータの集配信を行うためのロボット間情報共有手法を紹介する。具体的には、Piggy-back Networkのような分散システム上で、データの完全性を維持しつつ高い耐改かい竄ざん性・耐障害性を達成する記録の管理手法として分散型台帳技術を用いる。各ロボットは自身を含むネットワーク内の全ロボットの活動記録を表すトランザクション履歴を台帳で管理しロボット間で共有される。このトランザクション履歴をトレースすることで各ロボットの最新のデータ所有状況の把握が可能となる。台帳は、データ転送の事前に制御プレーンを介してロボット間で共有・同期され、その後台帳から算出されるセンシングデータ所有状況に基づいたセンシングデータ転送の必要性の有無に応じて接近しデータプレーンによるセンシングデータ転送を行う。なお、本稿では、例えばセルラーネットワークの電波の届きにくい災害地や屋内などにおける低コスト運用を目的として、無線局の免許不要で中距離での情報共有が可能なWi-SUNを制御プレーンの通信規格として想定する。したがって、制御プレーンの通信は確率的に発生することとなり、そのネットワークモデルは遅延耐性ネットワーク(DTN: Delay Tolerant Network)となるが、DTN上で分散型台帳を動作させるために、有向非巡回グラフ(DAG: Directed Acyclic Graph)構造を持つ台帳を採用している。1.3技術的な挑戦我々は、ネットワーク内のロボットの過去・現在を含む全てのトランザクション履歴と全センシングデータにネットワーク外の管理者やユーザが容易にアクセスできるプラットフォームの構築を目指している。このようなシステムは、管理者やユーザが容易にアクセスできるサーバを用意し、そこでデータを一極集中管理することでも実現可能であるが、耐障害性を継続的に担保するためには費用がかさむであろう。また、たとえ信頼できる機関によってサーバが管理されているとしても、データを直接扱うことが可能な者によって(故意でなくても)データが改竄されることを完全に防ぐことは技術的には難しい。同様の問題は既存のコンソーシアム型の分散型台帳を採用したとしても生じ得ることが分かっている[4]。一方、全ロボット間でトランザクション履歴とセンシングコンテンツを複製して所有するような分散システムを構築できれば、管理者やユーザは最寄りのロボットにアクセスするだけで、上記の仕組みを実現することが可能になる。具体的には、時刻tにおけるネットワーク内の全トランザクション履歴と全センシングデータを、時刻t+τ(τは遅延時間)に全ノードが保有した状態としたい。上述したように、本稿で考えるPiggy-back Networkでは、データプレーンに加えて制御プレーンの特性についてもDTNとなることを想定している。よって、τはノードの移動速度や通信距離にも依存することになる。このような環境下で、τを可能な限り最小化しつつ、更に高い耐障害性・耐改竄性を実現する方法として、我々はDAG構造の分散型台帳を使ったトランザクション履歴管理手法を提案する。異種無線Piggy-back Network2.1システム概要図1に検討対象とするシステムの概要図を示す。ネットワークは自律移動ロボット(以下、「ノード」とする。)で構成されている。各ノードは自律的に移動しながら定期的にセンシングを行っている。センシングタスクは例えば動画撮影などであり、センシングされた各データコンテンツは大容量のファイルとなり、ノード内のデータベースに保存される。各ノードは数メートル間での数Gbpsの近距離高速通信が可能なミリ波帯無線規格と、数十〜百メートルで約100 kbpsの中距離中速通信が可能な920 MHz帯無線規格であるWi-SUNを利用可能である。前者はデータプレーン、後者は制御プレーンで利用する。それぞれの通信可能距離をここではDdとDcとする。また、各ノードは台帳を管理している。台帳は「ブロック」の集合であり、ブロックには、あるノードから別のノードへのデータ生成及びデータ移行に関する2図1 システム概要ノードデータプレーンの接触制御プレーンの接触データベース台帳108 情報通信研究機構研究報告 Vol.67 No.2 (2021)4 NICT総合テストベッドの新たな可能性に向けた研究開発
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