情報通信研究機構(NICT)の研究報告においてテストベッド主体の特集が組まれるのは2005年以来16年ぶりのこととなる。当時、テストベッドの主役だった超高速研究開発ネットワーク(JGNⅡ)は、国内数十か所のアクセスポイントを最大20 Gbpsの高速回線で接続し、国外(米国、タイ、シンガポール、韓国、香港)とも相互接続して、全国の大学や研究機関、民間企業、地方自治体などの研究者にオープンな研究環境を提供していた。ダークファイバや先端機器を用いた実験も可能で、その規模や先進性などについて内外の研究者からも注目されていた[1]。その後、この超高速研究開発ネットワークテストベッドは機能や性能の向上を絶え間なく進め(名称もJGNⅡ→JGN2plus→JGN-X→JGNと変遷)、さらに大規模エミュレーションテストベッド(StarBED)と統合し、多様なIoT研究開発を推進する技術実証・社会実証の検証プラットフォームである総合テストベッドへと発展している。また、今年度(令和3年度)スタートしたNICT第5期中長期計画では、総合テストベッドに関連した計画として「Beyond 5G時代の社会的・技術的ニーズを検証可能な分散広域実証環境及びリアルタイムエミュレーション環境並びにデータ駆動型社会の実現に寄与するデータ利活用に向けた実証環境を既存のテストベッド上に新たに構築するとともに、(中略)テストベッド利用者の研究開発能力をテストベッドに結集させることにより新たな価値創造及び社会課題の解決に寄与するとともに、テストベッド利用、運用及び改善を通じてテストベッドの実証環境を循環進化させる等、国際的に魅力ある研究開発ハブの形成に向けた取組を推進する」と記載されている[2]。しかしながら、総合テストベッドを取り巻く現在の状況は順風満帆という訳ではない。社会に目を向けると、人口減少・少子高齢化に伴う社会構造の変化や労働人口の減少、気象現象の激甚化等による気象災害の増加、新型コロナウイルス感染症による社会の仕組みや価値観の変化などの様々な課題が我々を取り巻いている。これは通信インフラ等ICTの重要性の増大などを引き起こしているが、その一方で、我が国の研究開発力においては、基礎研究力の衰退、グローバル市場における日本企業の競争力低下などの深刻な事態が継続している。この状況を打開するために、Beyond 5G時代における新たなICT技術戦略が検討されており、NICTにはそのための研究開発と社会への成果展開の推進が期待されている[3]。総合テストベッドにも高いレベルの貢献が求められており、上記の中長期計画もそれを反映したものになっている。そしてその遂行のためには、総合テストベッド自身が大きく変革する必要があるが、この変革は容易ではなく、我々は今、生みの苦しみの中にあるとも言える。本特集号では、この総合テストベッドの現在とこれからの取組について紹介する。2で、総合テストベッドの全体概要とBeyond 5Gに向けた取組を俯ふ瞰かんした後、3では総合テストベッドの重要なパートでもあるユーザ拡大や国際連携に関する取組を紹介する。そして4で、総合テストベッド自身の変革にも関わる研究開発の状況について報告する。NICTの総合テストベッドは多くの企業や大学等の研究者、技術者の参画によって育てられてきた。中でもスマートIoT推進フォーラムテストベッド分科会での議論には大変助けられ、また勇気づけられている。関係各位の熱心な活動にここで改めて感謝を申し上げたい。参考文献】【1尾家祐二, “超高速研究開発ネットワークJGNⅡ,” 情報通信研究機構季報, vol.51, nos.3/4, pp.11, 2005.2NICT第5期中長期計画, https://www.nict.go.jp/lde9n20000000ev6-att/5th-mid-term-plan.pdf3「新たな情報通信技術戦略の在り方」(平成26年12月18日諮問第22号)第4次中間答申, 情報通信審議会, 2020年8月.久保田 実 (くぼた みのる)ソーシャルイノベーションユニットユニット長博士(理学)地球物理学1 緒言1Introduction久保田 実KUBOTA Minoru11 緒言
元のページ ../index.html#5