て情報通信研究機構(NICT)のJGNテストベッド上でのクラウド事例について述べる。3では同プラットフォームを支える要素技術を紹介する。4では同プラットフォームにより実現するアプリケーションやシステム事例を紹介する。5で本稿をまとめる。時空間データGISプラットフォーム2.1CyberEarth本節では、時空間データGISプラットフォームの発想の基盤となったCyberEarth構想(図1)について述べる。筆者らは、地球磁気圏研究において3次元時系列可視化技術[1]–[6]とその応用としてオブジェクトモデル化技法(OMT:Object Modeling Technique)による仮想地球環境システム(VEMS)[7]を2001年ごろに着案・構築し、これがCyberEarth構想の基盤となった。CyberEarthは先端的ICTにより地球規模でのデジタルデータ指向型社会を実現する構想である。地球環境をグローバルに理解するためには、様々な観測データを融合し解析・分析する環境が必要である。しかし、21世紀に入りあらゆる科学データサイズが爆発的に大規模化し、並行して起こったデータオープン化の流れに相まって、自然科学を含む多くの科学者たちは「データの波」に溺れ始めた*。科学ビッグデータ問題を解決できるのは先端的ICTであるという信念の下、筆者らは分野横断的のアプローチの一つとしてCyberEarthを提案した[8]。CyberEarthはネットワークを通じて集められる様々なデジタルデータをコンピュータに蓄積し、クラウド上で処理する統合的なシステムである。CyberEarthを構成する基本機能の一つは、定常的に流れ込むあらゆるデジタルデータを管理・保存することである。保存されたビッグデータは大規模処理・可視化がなされ、ユーザの要望に応じた形で提供できる。CyberEarthでは蓄積ビッグデータから情報を抽出し、過去・現在・未来の地球を大型ディスプレイ上に再現(可視化)する。研究者やデータアナリストは3次元時系列空間において地球空間情報を総合的に理解することを目指す。すなわちCyber Earthは ネットワークを介して大規模データをリアルタイム・高速にデータ収集・転送する機能(Network Earth)、デジタル化されたデータを保存・管理する機能(Digital Earth)、データを大規模処理・可視化する機能(Virtual Earth)の3つの機能から構成される(図1)。CyberEarth実現のためには、様々な高度情報通信技術のマッシュアップが必要である(図2)。図3はCyberEarthの詳細についての紹介コンテンツである[9]。2.2第4の科学研究手法科学研究の分野には、3つの研究手法があると言われてきた。第1の手法は理論研究手法であり、第2の手法は観測や実験による研究手法である。19世紀までに確立されたこれらの伝統的な研究手法に加えて、20世紀後半のコンピュータ処理能力向上に伴い、計算機シミュレーション手法が登場した。計算機シミュレーションは多くの科学及び工学分野で成果を挙げ、第3の科学研究手法と呼ばれるようになった。オブジェクト指向型計算機シミュレーションコード[10]–[14]やデータ解析アプリケーション[15]の登場によりプログ2図1 CyberEarthコンセプト図2 CyberEarthコンセプトと要素技術マッシュアップ図3 CyberEarth紹介映像コンテンツ[9]*とある科学衛星プロジェクトのPIの言葉はそれを象徴している。「なんてこった、一生かかっても解析できない観測データが手に入ってしまった。」64 情報通信研究機構研究報告 Vol.67 No.2 (2021)4 NICT総合テストベッドの新たな可能性に向けた研究開発
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