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サイエンスクラウドでは、表1の第2の研究手法(観測・実験)により得られた多種多様な観測・実験データと、第3の研究手法(計算機シミュレーション)により得られた大規模な計算機シミュレーションデータを一つのストレージ環境に集約する。この設計は、各研究者が独自のデータストレージを有する必要がないことや、データ管理を自ら行う必要がないことだけが利点ではない。すべてのデータが一か所にあることで、あらゆるタイプのデータを横断的・統合的に処理することが可能となる。これにより、例えば科学衛星観測データと宇宙科学シミュレーションデータの融合的解析の効率が飛躍的に向上する。筆者らはNICTテストベッドであるJGN上に、宇宙天気予報システムにおいて国内外からのデータ収集[38]–[41]、データ転送[42][43]、データ保存[24]を一括して行うシステムを構築した[44]–[46]。大規模科学データ処理環境という点でも、科学研究クラウドは有効である。前述のとおり、近年の科学研究データ、特にビッグサイエンスデータは大規模化の一途をたどっている。これらのデータの多くは、単体の計算機で処理できる規模を超えており、並列分散処理が必須である。しかし、同一の計算機を複数台接続したクラスタ環境では、システムのスケーラビリティーに問題がある。クラウドはヘテロコンピューティング環境を前提としており、システムを継続的に拡張することができる。HadoopやGfarmなどは分散ストレージ管理システムであるが、同時にヘテロ環境でのデータ処理機能を有している[47]。また、協調的研究環境も科学研究クラウドの利点の一つである。現在、ほとんどの大型科学研究プロジェクトは、国内外の複数の研究組織・研究グループの研究者の協力により進められている。交通網の発達により以前よりも研究者の交流は容易になったが、それでも国際的な研究者間の交流・情報交換と共同研究は容易ではない。特に本稿執筆時は世界的なコロナ禍にあり、研究者の海外渡航は困難な状況である。クラウド上に複数の研究者が共通で利用できる研究環境を作ることで、コストダウンだけではなく、協調的研究環境がデータ解析を加速させることが可能となる。NICTサイエンスクラウドはコンセプト提案だけではなく、NICTの高速バックボーンネットワークであるJGNを活用して広域分散クラウドとして実装され、2012年度及び2013年度は月平均で400~900ユーザアクセスがあった(図5)。特に、2013年度の成果はプロジェクト規模、プロジェクト分類、リソース利用分類、利用者数、学術研究成果、セキュリティー対応状図4 NICTサイエンスクラウドの概念図図5 NICTサイエンスクラウドユーザログイン回数(2012年度~2013年度)66   情報通信研究機構研究報告 Vol.67 No.2 (2021)4 NICT総合テストベッドの新たな可能性に向けた研究開発

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