筆者らはかつてのWDC組織のデータ及びデータベース担当者であり、宇宙環境や地球環境といった自然環境研究分野の研究者として大規模データ処理システムや可視化システムの開発に従事してきた[73][74]。上記の問題についてこの研究分野の視点から検討を行った結果、解決方法の一つとしてビッグデータ処理の基盤としてNICTサイエンスクラウドを活用し、様々な時系列データを融合的に表示するための学際的科学データ表示Webを提案した[71]。多種多様な科学データを高い利便性で時系列表示できるため、異分野間連携データ表示・理解の進展が期待できる。学際的科学データ表示を実現するには、異なる研究機関からのデータの収集、データ構造が異なる多種多様なデータへの対応、データの大規模化と大規模処理、大量情報表示環境などがボトルネックとなり、実現していなかった。科学データ自動収集クローラ、データをカプセル化するクラスライブラリ、クラウド環境での並列データ処理技術、TDW(Tiled Display Wall)による超高解像度ディスプレイなどのNICTサイエンスクラウド基盤技術によりこれらの問題点を解決できる。クラウド基盤技術をマッシュアップすることで、今後、本研究で提案する学際的科学データ表示Webにより異分野横断型研究への寄与が期待される。筆者らはこれらを背景に、図15に示す複数の独立した異なる科学衛星プロジェクトの時系列データを時間スケーラブルに比較可視化するアプリケーション(STARStouch)をNICTサイエンスクラウド上に実装した[71][75]。図16は、STARStouchにより時間方向(水平報告)にデータスライド表示を行っている様子である。一般のグラフツールでは表示時間帯を変更するためにはメニューで当該日時を入力するが、この作業によりデータの連続性の認識が難しくなる。本アプリケーションではマウス左クリックで水平方向にドラッグすることでデータを時間方向にデータが存在する限り無限に連続表示できる。ここでは、表示時間の前後のグラフ画像データをキャッシュすることでグラフ表示の高速化を行っている。図17は、STARStouchで時間方向(水平報告)にデータを拡大表示する様子である。マウス左ダブルクリックで時間方向に拡大(ズームイン)、右ダブルクリックで縮小(ズームアウト)する。一般的な解像度(例えばフルHD)のディスプレイ端末上であれば、約10分から約10年までを20段階で連続的に拡大・縮小表示できる。STARStouchは、垂直方向にデータ配置を移動する機能も有している。比較したいデータを上下に自由に配置することで試行錯誤的に異分野データ間の相関を目視で確認・検討することが可能となる。STARStouchの技術は新聞記事などの定期刊行物可視化技法として2020年1月に特許を取得している[76]。これらの実装事例をもとにサイエンスクラウドビジュアライゼーションギャラリー(図18)を立ち上げ、学際的科学データ表示Webの有効性を検証した。これにより得られた基礎技術を整理し、有効となる時空間同期技術をSTARS(SpatioTemporal data Analytic and Reciprocal Synchronization)として提案し[73][77]、その一部をOSSとして公開予定である(図10)。関連分野や異分野の情報を連携・連動して研究者に提示する方法は、言い換えると多種多様で大量のデータを同時に研究者に提示することを意味している。分野融合の視点では様々なデータが連動して提示されることは望ましい一方で、膨大なデータをどのように整理して提示するかが重要となる。複数の情報を乱雑に提示しても、研究者がそれをもとに新たな知見を得ることにはつながらない。2.5で議論したとおり、セマ図15データ存在バー表示:バー色によりMission(観測計画)を表し、左側のタイトル部がTeam観測チーム)を表す。(2)は(1)を時間方向に拡大した場合。バーが抜けている期間は、当該データがその期間に存在しないことを示している。図16STARStouch時間スライド表示機能:(1)でマウス左クリックによるドラッグで(2)のように時間方向にデータをスライド表示できる。STASRtouchでは、表示画像の前後時間のグラフ画像をキャッシュすることで表示高速化を実現している。734-3 時空間データGISプラットフォーム
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