3.3高速データ伝送技術(HpFP)JHPCN広域分散クラウドの基盤となるJGNやSINET5などの高速ブロードバンド回線の活用には、その上で高い機能を発揮する通信プロトコルが重要となる。筆者らは、NICTテストベッドネットワークであるJGNなどの広帯域長距離ネットワークLFN(Long Fat Network)において高いパケットロス耐性を有する通信プロトコルとして、HpFP(High-performance and Flexible Protocol)の設計と実装を進めている。一般には、データ通信プロトコルとしてはhttpやftp、rsyncやrcpなどのTCPを基盤としてプロトコルを使うことが多い。しかしTCPは遅延やパケットロス環境に弱く、特に両者が融合する環境ではパフォーマンスの低下が極端である傾向にある。UDPベースの高信頼通信プロトコルとしてはUDT(UDP-based Data Transfer Protocol)があるが、筆者らの実験ではLFNにおいて10 Gbps以上を達成することができず、将来性が高くないと判断した。[23][42][43][80]。そこで、基盤プロトコルとして筆者らが開発したHpFPを提供する。HpFPは2019年11月に特許取得[81]しており、その詳細設計及び仕様については多くの論文で報告済みである[48]–[56][82]。本稿ではHpFPの仕様については割愛し、室内実験による基本性能を紹介する。さらに、HpFPを使ったNICTサイエンスクラウドシステムと京都大学学術情報メディアセンターによるJGNとSINET5を用いた実環境での通信実験結果を紹介する。図20は、本研究の室内実験環境である。2台の送受信サーバをネットワークシミュレータで挟み、人工的な遅延やパケットロスを与える。ネットワークカードは送受信で10 Gであるが、シミュレータにより実験帯域を最大で1 Gbpsとした。これは、JHPCN広域分散クラウドのL3(Layer 3)ネットワークでファイアウォールを考慮すると、京都大学学術情報メディアセンターとNICTサイエンスクラウドシステムの間のスループットが1 Gbpsを上回ることがないからである。図21はHpFPとTCPの基本性能測定ツールとして一般に利用されているiperf(本研究ではTCPオプションを選択)との比較実験を、図20の室内実験環境において行った結果を示す。図21によると、iperf(TCP)はパケットロスや遅延がない環境では十分な性能を示すが、遅延が発生すると性能が低下することが分かる。性能低下はパケットロス環境下では顕著であり、片道0.5%程度のパケットロスがある環境では1 msec程度の遅延でもデータ伝送性能は極端に低下する。一方、図21によるとHpFPは遅延やパケットロスに極めて強いことが分かる。片道0.5%のパケットロスと50 msec程度の遅延においても、その性能劣化は極めて小さい。本稿では議論しないが、実際にはロス10%で200 msecの遅延環境などの極めて厳しい環境においても、HpFPは図21と同様の高いロス耐性・遅延耐性の振る舞いを示すことがわかっている。さらに筆者らは、図20の室内実験を背景として、JHPCN広域分散クラウド(L3)上でSINET及びJGNを用いた広域通信実験を行った。図22は、HpFPにより京都大学学術情報メディアセンターとNICTサイエンスクラウドシステムの間で基礎的な通信実験を行った結果である。京都大学学術情報メディアセンターとNICTサイエンスクラウドシステム間ではパケットロスはなく、RTTは平均15.7 msであった。また、両者間のJGN及びSINET5のネットワーク帯域(バンド幅)は10 Gbpsと十分であり、通信ボトルネックはNICTサイエンスクラウドのFW(ファイアウォール)にあることが分かっている。(通常は、300 Mbps~500 Mbps程度しか空き帯域がない。)HpFPは目標スループット(上限スループット)を設定することができるが、図22では100 Mbps~600 Mbpsを目標スループット値として設定して実験を行った。300 Mbpsまでは安定して通信できていることから、HpFPによる両者間での通信は、安定して300 Mbps以上が可能であることが分かる。図22では目標スループットが400 Mbps以上では目標スループット値が達成できていない。例えば、目標スループットを600 Mbpsと設定した場合でも、実測値は440 Mbps以下となっている。本稿では述べていないが、事前に行った室内実験(パケットロスなしで20 Gbps環境)においてHpFPは100 msec以上の遅延環境でも10 Gbps以上を達成していることから、HpFPの実装の制約で図20 HpFPとiperf比較のための室内実験環図19サイバーフィジカル時空間データGISプラットフォームによるタイムラプス映像と地理情報の融合可視化754-3 時空間データGISプラットフォーム
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