その後、環境が望ましくない一部の気象ステーションについては別の中継局に移設した(上徳間火の見櫓を上山田農業者トレーニングセンターに移設、姨捨観光会館センサーを姨捨公園に移設)。また、中学校構内環境データ計測として、小型環境センサー(WxBea-con2)のBluetooth(BLE)によるRaspberry Pi中継局からのデータ伝送システムが完成した。戸倉上山田中学校の校舎で1学年5教室の合計15教室に2か所ずつセンサーを設置するなど、中学校内40か所からのデータ取得実験に成功した。2020年度取得データの詳細分析を行ったところ、屋内外の環境の差異が可視化され、人の行動(窓を開ける)などがデータから読み取れることが明らかになった。千曲あんずネットワークの映像IoTシステムを用いた映像処理技術開発として、降雪画像処理による降雪自動検出を試みてきた。図39の千曲あんずネットワーク中継局14か所の映像IoTうち11か所は虫の目カメラ(図44で後述の足元をモニタリングするカメラ)であり、動画像取得のサンプリングタイムは10分ごとで映像取得時間は5秒である。すなわち10分ごとに5秒の動画像を録画しており、このような録画モードがプログラマブルであることは映像IoTシステムの汎用的なIPネットワークカメラに対するアドバンテージとなっている[90]。研究ではまず、雪片のサイズと数がカメラの距離に反比例する特徴を活いかした降雪検出アルゴリズムを作成した。実際に観測された降雪日画像で性能検証を行い、図42に示すように90%以上の高い確率で降雪検出ができることを確認した[116]。その他、千曲あんずプロジェクトでは、3.5の画像処理のための定常的な映像データ取得、映像IoTのための遠隔PTZ(パン・チルト・ズーム)制御技術開発、地域災害データの歴史的境界WebGISとの連携、民間企業による画像処理型水位計開発フィールドなどの役割も担っている。4.1のひまわりリアルタイム技術を生かし、地域気象データ(日射量、降雨、風向風速、気温、湿度、雲画像、気象警報等)の時系列可視化Webアプリケーション開発(地域版ひまわりリアルタイム[117])も進んでいる(図43)。4.2.2都市劣化診断(千曲市見守り)都市劣化診断は、時空間データGISプラットフォーム利活用事例のコンセプトの一つである。筆者らは、3.4の映像IoTシステムを都市域の様々な箇所に設置し、定常的に都市を見守るコンセプトを提案している(図44)。高所にPTZ(パン・チルト・ズーム)機能を有する鳥の目カメラ、低所に安価な固定型の虫の目からを設置し、これらの目の届かない場所は可動型の魚の目カメラが映像を伝送する。本節では、千曲市を対象としてどのように都市劣化診断を実施するかを議論する。 3.4の映像IoTは社会全体に映像伝送システムを配置することで都市空間を広域に見守る技術である。一方、近年活用が進んでいるGIS(地理情報システム)では従来の2次元から2.5次元、さらには3次元WebGISと機能向上が進んでおり、任意視点からの時系列ビューが得られるなどの点で映像IoT技術との親和性が高い。時空間データGISプラットフォームによる都市劣化診断では、申請者らがこれまでに開発してきた映像IoT及び3D WebGISの要素技術を高度化し、一つのシステムとしてマッシュアップすることでサイバーフィジカル型の時空間データGISプラットフォームを開発する。機械学習による複数の先進的画像処理技術を有効に組み合わせ、PTZ(パン・チルト・ズーム)機能により高所設置カメラが都市スキャンすることで得られるタイムラプス動画像から建造物変形や土砂災害予兆などの長期変動や河川増水・火災発生・交通状況などの短期変動に関して、画像内のピクセル単位での差分情報を抽出する都市劣化診断をリアルタイムに実施する。診断結果は時々刻々と更新する動画とともに3次元GIS空間に正確にオーバーレイされ、人口・世帯分布[72]や詳細な行政境界・歴史的境界[78][79]などの基本となる地理情報と直接比較される。提案プラットフォームは大規模なシステムとなるため、2.4で述べた学際大規模情報基盤共同利用・共同研究拠点(JHPCN)で実装済みの広域クラウドシステム上に実図43 地域版ひまわりリアルタイム[117]図44鳥の目カメラ・魚の目カメラ・虫の目カメラによる都市見守りコンセプト84 情報通信研究機構研究報告 Vol.67 No.2 (2021)4 NICT総合テストベッドの新たな可能性に向けた研究開発
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