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と同程度の無くてはならないライフラインと化しており、地理的・社会的な事情によって必要な情報にアクセスできない、ないしは必要な情報が行き届かないことは、医療・福祉・教育から防災・防犯等のほか、ほぼ全ての少子高齢化や過疎に関わる課題とも関連して、極めて多岐にわたる領域において不都合をもたらすことが容易に想像できる。日本国内の情報通信ネットワークの動向や性能に目を向ければ、2020年に商用サービスが開始された5G無線ネットワークで、初めてミリ波帯*を使った携帯ネットワークの利用が可能となり、2021年10月1日現在、受信時最大4.2 Gbps、送信時最大480 Mbpsの通信速度が実用となった。一方で短距離無線である無線LAN(Local Area Network)や無線PAN(Personal Area Network)におけるミリ波帯の利用では、10 Gbpsを超える通信速度を達成可能な無線通信デバイスも既に実用化されているが、いまだ十分な普及には至ってない。さらにはオールジャパン体制で5Gの次の世代のネットワークであるBeyond 5Gのコア技術に関わる研究開発の推進と関連市場での競争力増強を促進するため、Beyond 5G推進コンソーシアムも結成されている[2]。総務省国際戦略局出版の「Beyond 5G研究開発促進事業 研究開発方針(令和3年9月22日)」における項目「1.目的・概要」には、「2030 年頃に導入が見込まれる 5G の次の世代の Beyond 5G(いわゆる 6G)は、サイバー空間を現実空間(フィジカル空間)と一体化させ、Society5.0 のバックボーンとして中核的な機能を担うことが期待されている。Beyond 5G は、従来の5G 以上に国民生活や経済活動を支える社会基盤として、あらゆる組織や産業において活用されることが想定されるため、我が国は Beyond 5G の早期かつ円滑な導入を目指す必要がある。」とあり、主要な研究開発課題が別添「『Beyond 5G機能実現型プログラム』の研究開発課題候補リスト(第2版)」として記されている。ここに掲げられたBeyond 5Gの方向性を特徴づける研究開発課題には、超高速・大容量化を実現する技術や、超低遅延を実現する技術、超多数同時接続を実現する技術など、5Gの特徴的機能を更に高度化・発展させる方向性も含まれるが、より注目すべき点として、超低消費電力、自律性、拡張性、超安全・信頼性を実現する技術の研究開発の重要性が掲げられている点がある。関連して、NTTドコモによるホワイトペーパー「5Gの高度化と6G」(2020年7月第2版)に記載の「図6 6Gが目指す無線技術への要求条件」(出典元は文献[3])に依よれば、Extreme coverage(超カバレッジ)が掲げられており、地上以外(海中、空、宇宙空間など)をサービスエリアとするための無線技術(空や海、宇宙空間など)の研究開発が重要とされている。後の章で詳述するが、これまでソーシャルICTシステム研究室では、人の暮らしが存在する限り、電気・ガス・水道のようなライフラインネットワーク(のいずれか)、衣食住に必要なモノの往来ネットワーク(物流)、公的ないしは私的な交流や様々なサービスの提供を目的とした人の往来ネットワーク(人流)の3つが必ず存在することに着眼した、地域IoTネットワーク基盤の構築を目指した実証的な研究開発をNICTが保有するテストベッド設備を自ら活用して推進してきた。これら活動によって得られた知見は、今後NICTが保有・運用するBeyond 5Gテストベッド設備の仕様等へフィードバックすることが重要と考えている。特に、“データの地産地消”と“人流・物流にデータの流通も託す”を、地域の情報ネットワーク設計の基本コンセプトとして掲げ、伝えるべきデータが有ろうが無かろうが、必然として存在する上記物流や人流を積極的に活用して必要な物資と併せて情報の収集・配信を行うネットワーク(これをPiggy-back Networkと命名している)の有用性と有効性を示すための実証的研究開発を推進している[4]。ところで2030年代は、少子高齢化や過疎、人手不足といった社会課題への対策として、人やモノを運ぶための移動手段(車両等)の操縦手法が、人自身によるマニュアル運転中心から、目的に則した適切な移動制御を自律的な判断に基づいて行う自律型モビリティへと急速に置き換わっていく過渡期と考えられる。自律型モビリティ技術の発達に伴い、徐々に人の判断を介する領域は減少し、時々刻々と変化する天候や交通状況などの状況に加え、到着時間の最短化や消費エネルギーの最小化といった運ばれる人・モノのニーズに応えた最適な移動制御をモビリティが自動で行うことが一般的になると考えられる。また、マニュアル運転では困難であった、きめの細かい周辺モビリティとも協調した発進・停止の制御や速度調整、自動的な迂回経路の選択、僅かな走行位置の調整なども自在となるであろう。さらには陸路の自律型モビリティのみならず、既にドローンの利活用や空飛ぶタクシーなどの話題が盛んであるが、一般消費者が容易に近距離であっても移動やモノの運搬を目的として空路を利用する自律型モビリティを活用する社会となるであろう。これら多様化した自律型モビリティに頼った人流・物流のための移動手段によって、これまで特に少子高齢化や過疎の問題によって人・モノを往来させることが困難で*ミリ波帯= 30 GHz 〜300 GHz の波長がミリメートルオーダーの周波数帯。5G 無線では28 GHz 帯が用いられており、正確には準ミリ波帯であるが便宜上ミリ波帯と呼ばれている92   情報通信研究機構研究報告 Vol.67 No.2 (2021)4 NICT総合テストベッドの新たな可能性に向けた研究開発

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