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あったり、高コストであったエリアまでモビリティを往来させることが容易になると考えられる。このような、人・モノの往来が困難なエリアは往々にして、採算がとれないとして情報インフラ(ブロードバンドアクセス環境など)の整備が行き渡るまでに長い時間を要してきたが、上述した当研究室の地域の情報ネットワーク設計のコンセプト、“人流・物流にデータの流通を託す”ための手段や技術が確立され、簡単にアドオンで自律型モビリティに搭載できる社会が到来すれば、上記課題の解決の糸口となろう。なお、インクルーシブ社会の実現に向けた課題からはやや逸れるが、本来人や物資を運ぶために必要であるモビリティにデータも運ばせることは、ネットワーク敷設のコスト削減に留まらずネットワークに必須な通信そのものやデータ交換に必要なエネルギーでさえ削減できる潜在的可能性も秘めている。当研究室が推進するPiggy-back Networkの設計原則として冒頭記載した設計概念“データの地産地消”については、多くの情報が、その発生源近郊ほど、また発生時刻からの経過時間が短いほど利用価値が高いという事実にのっとり、特に地域で発生した情報を多量なエネルギーを消費するクラウド(データセンター)に預けるのではなく、まずはデータ発生源の周辺に位置するデバイス等で共有し消費することを推進する試みである。ここで用いるデータの流通原理については、設計指針“人流・物流にデータの流通も託す”に基づき、移動体が自らの移動能力によってデータを物理的に運ぶことを最大限活用し、データの交換については、データを運搬中の移動体が行き先の異なる他の移動体と近接した機会を活用して、いわゆる“すれ違い通信”によってデータを転送するないしは共有することを動作原理としている。よってデータを運搬中の移動体は、データを遠方まで時間をかければ運ぶことができる(なお、時間の経過とともにデータの価値も低下するとされるので、最後にはデータは廃棄される)また、移動範囲が広がるに従い、一般的に他の移動体との近接機会も増加するため、データの発生源近郊を中心にデータの配信や拡散も可能となり、“データの地産地消”とも相性の良いデータ流通方式と言える。さらに、次節以降で詳説するように、移動体間のすれ違い通信で用いることのできる無線通信能力は、今後10 Gbpsを更に大幅に超える100 Gbpsや、1 Tbpsといった非常に高速になり、すれ違い通信におけるデータ転送時間を極めて短縮することに成功すれば、データの転送・拡散時間は実質移動体が物理的に移動する時間のみによって支配されることになる。歴史を遡れば、江戸時代以前の飛脚に始まり人・物の移動手段と通信手段は密接な関係にあることは自明である一方で、近年の携帯電話ネットワークやインターネット社会に慣れてしまった我々は、一見移動体にデータの転送を託す方式が、リアルタイム性に欠けた非常に低速なデータ転送手段だと考えがちである。しかしながら、十分に(転送しようとするデータサイズによっては極めて)大容量の通信ネットワークインフラが整備されていない拠点やエリアにおける情報収集や情報配信手段としては、物理的な移動体の移動にデータの移動も託したほうが、データの伝達速度はむしろ高速になることは容易に証明可能であり、特に前述したインクルーシブ社会や、Beyond 5Gの要素として掲げられている超カバレッジの実現という目標も考慮すると、この有効性はより顕著であろう。次節以降の構成について述べる。2ではPiggy-back Networkの概念と課題について概説する。3では、ミリ波IoTを用いたすれ違い通信容量に関わる理論とモビリティ制御の有効性に関わる議論を行う。4にてミリ波IoT搭載自律型移動ロボットを使ったデータ転送実証システムのプロトタイプについて紹介し、モビリティ制御の位置方針である「ストップ&ゴー」効果の検証結果を示す。Piggy-back Networkの概念と課題2.1Piggy-back Networkの基本概念 1で述べたとおり、当研究室が提唱しているPiggy-back Networkは、“データの地産地消”をその設計原則としており、人の暮らしが存在する限り、電気・ガス・水道のようなライフラインネットワーク(のいずれか)、衣食住に必要なモノの往来ネットワーク(物流)、公的ないしは私的な交流や様々なサービスの提供を目的とした人の往来ネットワーク(人流)の3つが必ず存在することに着眼し、これら情報流通網に暮らしに必要な情報を更に重畳して届けようとするものである。図1にPiggy-back Networkのシステム概念を示す。データが転送される基本原理としては、携帯電話ネットワークを介することを前提としないことを特徴とし、図1の中心部に位置するライフラインネットワークを活用したデータの収集・配信・共有に基づくものがまずあり、次に暮らしと密着したサービスに関連する固定施設と、さらにこれと関連するモビリティ間が近接時に直接ワイヤレス通信を行いつつ、データの物理的な移動、特に中距離から長距離の移動についてはモビリティの移動能力(データ搬送)に任すことを大きな特徴としている。なお、モビリティによるデータ搬送については、一台のモビリティのみに任せることなく、異種サービスのモビリティ間が互いに近接した場合に、データをワイヤレス通信で共有することで、より多方2934-4-1 Piggy-back Networkの概念とモビリティ間近接機会利活用技術の研究開発

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