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産地消の視点に立ち戻れば、ほとんどの必要かつ有効な情報を物理的な近隣拠点に複製保存しておく、もしくは複製保存されていない場合には、その場所から即座に保存先拠点を見つけ出して取得することが可能であれば良い。一例として、一地方自治体レベルであれば、全ての人が例えば100メートル以内の物理的拠点に“立ち寄れば”、あらゆる情報が得られるという状況であり、その程度の稠ちゅう密みつ度で考えるなら、大容量ネットワーク回線を付帯させた大容量ストレージを配備する事自体は、技術的にはさほどチャレンジングな課題ではなくなっている。また100メートル以内と言わず、数メートル以内や手を伸ばせばあらゆる情報が得られるという究極の形が目下の携帯電話やスマートフォンの状況だと考えれば、あとは超カバレッジやインクルーシブ社会にも通じる、どこでも・誰でもそのような環境を提供できるのか?という到達レベルの問題になろう。あらゆる全ての国民が分け隔て無く、すぐ最寄りに情報拠点を有する手段として、ライフラインネットワークを活用することは極めて有効と考えられる。ライフラインネットワークを用いる場合、例えば電力線通信方式(いわゆる、PLC:Power Line Communica-tion)を用いた情報ネットワークの検討や普及活動は長らくあったが、十分に普及したとは言い難い。一方で、過去10年程度で電気・ガス・水道の使用量を、人手を介さずリモート検出可能とするほか、HEMS(Home Energy Management System)を構成して、家庭内等のより詳細な消費電力の内訳等を見える化し、積極的な省電力制御を行うことを可能とした、スマートメーター技術の発展・普及が十分に促進され、特に電力各社の総導入状況としては2019年3月末時点で5,182万円世帯(全世帯のおよそ63%相当)、2023年末に全世帯ほぼ100%への導入が完了する状況である。これら各世帯のスマートメーターと電力会社の間をつなぐネットワークを、例えば家屋内の状態センシングや住人の積極的な発信情報の収集と、同家屋内の生活者向け情報の配信ネットワークとして活用できれば、あらゆる暮らしのある場所に対するユニバーサルで、極めて低コストかつ効率的な情報ネットワーク構築手法となる。また、さらにはその家屋周辺の状況までを含めた地域情報の収集・配信にまで活用できれば、地域の情報収集・配信ネットワークとしても極めて有効であろう。そのような発展に向けた活動がより活発化することは、今後見込める一方で、無線通信ネットワークを使った情報配信範囲の広がり及び伝達即時性と、伝えることが可能な情報量の関係はトレードオフの関係にあることから、近年の超ブロードバンドのニーズに応える手段としてライフラインネットワークを直接利用することは難しい。前述した超ブロードバンド環境のニーズにも応えることが可能であり、一方で新たな専用のインフラ整備も必要としない地域ネットワークの構築手法として掲げるのが、“人流・物流にデータの流通を託す”原理の下、冒頭で記載した今後過渡期にはいる自律型モビリティを活用したPiggy-back Networkの構築構想がある。あらゆる情報消費者に対して、大容量データであっても低コストかつ低レイテンシで届けるために、事前に既存の自律型モビリティの移動を活用して効率的に情報を配備しておく。そのためにはアクセス頻度の高い情報についての推定技術の確立も必要であろう。またユーザに対しては原則超ブロードバンドでの無線アクセス環境を提供することと同等のユーザ体験を提供する必要性があると考えられる。2.3Piggy-back Networkを支える3つの研究開発課題前述したPiggy-back Networkの構築においては、次の3つの技術的課題、すなわち①近接機会を活いかす技術、②近接機会を創出する技術、そして③近接機会を管理する技術、が必要と考えている。以下その概要について説明する。①近接機会を活かす技術“人流・物流にデータの流通も託す”をネットワーキングの原理として、データの中長距離移動は物理的なモビリティによる移動力(搬送力)に頼りつつ、交換はモビリティ間でのすれ違い通信によって実現すると述べた。異なるモビリティ間で大容量のすれ違い通信を実現するためには、ミリ波帯等の超高周波を使った超広帯域な周波数資源を使ったデータ伝送が有効と考えられるが、長距離・広範囲に渡ったデータ伝送は難しい。よって、極めて短時間のうちに効率的にデータ転送を行う必要がある。このような目的に対して極めて相性の良い技術規格としてIEEE802.15.3e[5]準拠の無線規格を用いる次世代TransferJet通信規格(以下、TransferJet-Xと記載する)がある。TransferJet-Xの最たる特徴は60 GHz帯等のミリ波帯を使った10 Gbps超のデータ伝送速度のみならず、リンク確立の時間を僅か2ミリ秒以下として短縮していることにある。図2は、上記15.3e標準規格に関わるドキュメント[6]に記載されている、リンク確立時間は2ミリ秒以下にする必要があることの根拠されているリンク確立時間と伝送可能ファイルサイズの関係を示したものである。TransferJet-Xを使った応用例として期待されている一サービスに、駅等の通過ゲートにおける課金を非接触(無線)で行うタッチレ954-4-1 Piggy-back Networkの概念とモビリティ間近接機会利活用技術の研究開発

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