感)を感じ取っているのか、実在感をヒトに生じさせるメカニズムを科学的手法により明らかにする。具体的には、心理物理学・fMRI(機能的磁気共鳴撮像法)・脳波計測などの手法を用いて、ヒトの感覚・知覚に関する信頼性の高い計測データを取得・解析し、遠隔のコミュニケーションやインタラクションの促進を可能にするシステム設計に役立てる。特に、多感覚情報のクロスモーダル知覚(感覚間相互作用)に関する知見は、特定の感覚を他の感覚で補完・補強できる可能性を示しており、効率的で効果的なシステム設計の指針を与える。第二の「AIに基づく実世界の人・環境のモデル化・理解・拡張」においては、実世界の人や環境の3D形状・内部構造、表面特性(テクスチャ・反射率関数)、動的特性等をモデル化し、サイバー空間やリアル空間における情報の再構築・理解・拡張に活用する。ヒトの脳内では、たとえ入力の感覚情報が断片的で不完全であっても、過去の経験で学習・獲得された対象の知識をトップダウン的に用いて入力情報の補完・再構築が行われることが知られている。実世界モデリングのシステム開発においても、機械学習により対象の知識を獲得し入力情報のモデル化に活用することは極めて有効と考える。特に、AIに基づく実世界モデリングは、設置・計測・解析に手間のかかるセンサ群に頼る必要がないため、低コストかつ実時間でのモデル構築に威力を発揮すると考えられる。第三の「XR(VR/AR/MR)インタフェース技術」においては、遠隔からでもリアルかつ自然な多感覚情報を伝え直感的なインタラクションを可能にするインタフェース技術を開発する。ここではヒトの脳や身体に違和感・疲労を与えない自然な情報提示の手法や長時間に渡るトレーニング等を必要とせず直感的に操作できるシステムの実現を目指す。特に、ヒトに対して心的負荷を与えない多感覚情報の時空間提示条件、仮想情報の実空間・実時間からのズレに対するヒトの許容範囲等の知見に基づいてシステムの最適化を図る。これまでの取組と主な成果(2006年4月~2021年3月)本節では、現研究室の前身となる研究室・研究グループにおいて実施してきた研究開発における主な成果や社会展開に向けた取組について概説する。NICTにおける5年ごとの中長期計画・組織改編に伴い重点研究項目に変化はあるものの、一連の研究室・研究グループにおいて掲げてきた基本的理念と方法論は一貫しており、本節ではこのようなリアリティ研究のこれまでの取組の概要と主要な成果について述べる。3.1超臨場感システムグループにおける取組(2006年4月~2011年3月) NICTの第2期中長期計画(2006年4月~2011年3月)においては、総務省の「UNS戦略プログラム」(平成17年情報通信審議会答申)において設定された「超臨場感コミュニケーション」(超高精細・立体映像、高臨場感音場再生、触覚・嗅覚を含めた五感通信等)の実現に向けた研究開発を進めるために、「超臨場感システムグループ」と「超臨場感基盤グループ」から成るユニバーサルメディア研究センターがNICT内に発足した。現研究室のルーツに当たる超臨場感システムグループでは、ヒトが感じる臨場感の指標(構成要素・要因)を設定し、臨場感を客観的・定量的に解析する手法の開発を進めた[1]。特に、広視野3D映像によって生ずる包囲感・没入感等をfMRI脳活動計測に基づいて客観的に捉えるために、MRIの高磁場環境下で水平視野角100度の両眼立体映像を提示可能なシステムを世界で初めて開発し、後頭野から頭頂野の視覚関連領野の活動パタンを明瞭に捉えることに成功した[2]。また、モノの質感の主要な要素である光沢感が両眼視差情報・動的変化情報により増強して感じられることを心理物理学的手法により実証し、高級感・上質感等が求められる製品開発や商品提示においてこのような知見が有効であることを明らかにした[3]。また、多感覚インタラクション技術の研究開発を進め[4]、モノの立体映像(視覚)、感触(触覚)、接触音(聴覚)、香り(嗅覚)の四感覚を同時に制御可能な多感覚インタラクションシステム(MSenS)を世界で初めて開発した[5]。特に、仮想物体の材質・表面特性、ユーザの触り方に応じた接触音を実時間で生成可能な技術及び香り提示の時空間制御が可能な嗅覚ディスプレイを新規に開発し、本システムに実装した。さらに、携帯型の把持感覚提示デバイスの開発に着手するとともに[6]、画像の臨場感を高める香りの選別手法の提案も行った[7]。多感覚インタラクションシステムに関しては、貴重な文化財のインタラクティブ体験等、多数の多感覚コンテンツを制作し、全米/全欧最大の放送機器展NAB/IBCや最先端IT総合展CEATECなど国内外のイベントに出展、本技術の効果を国内外の多数の人々に体験してもらい高い評価を得た。一方、立体映像に関しては、世界最大の200インチ裸眼立体ディスプレイ[8]及びテーブル型裸眼立体ディスプレイ[9]を開発し、多数のイベントに出展し体験デモを実施した。さらに、産学官連携による研究開発・実証実験・標準化等の推進を図るために、2007年3月、総務省・NICTが中心となって超臨場感コミュニケーション産学官フォーラム(URCF)を設立し、3D映像や五感に3972-5 実在感を伴う遠隔コミュニケーションの探究とその基盤技術の研究開発
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