まず、領域Cでは、ネット上の仮想空間(イベント等)においてユーザが不特定アバター(CG/アニメの人物・キャラクタ)に変身し匿名で交流を楽しむといった利用形態が考えられ、既に商用化が進んでいる。現在メディアでよく取り上げられる「メタバース」は、このような仮想世界を指していることが多い。この領域には、実世界の制約から解放されて自由な体験や交流をゲーム感覚で楽しめるというメリットがある。本人の身体的特徴や人格とは全く異なるキャラクタで自由に交流できることは、特に身体的/心理的障害を持つ方々にとっては活動の場の拡大につながると考えられる。領域Dは、本人とは容姿の異なる不特定の3Dアバターを実空間の中で利用するといった使われ方を意味している。例えば、実空間の店舗に設置したモニターの中の3Dアバターやアバター・ロボットを遠隔操作して接客サービスを行うといった利用形態が考えられる。接客では一般に本人の実際の年齢・容姿・人格は重要ではないため、より魅力的な容姿に変身して接客することにより客に好印象を与えられる可能性がある。また、本人とアバターを一対一に対応づける必要がないため、操作者が複数のアバターを遠隔から同時に操作するといった使われ方も想定できる。領域Bは、ユーザが自分の個人アバターを指定し仮想空間の中で実名を用いて交流をするといった利用形態を示している。現在商用化が行われているプラットフォームでは、ユーザはあらかじめ用意された3Dアバターの中から自分に容姿が似た3Dアバターを選択したり、3Dアバターの髪形などのパーツを更にカスタマイズしたりして利用することが行われている。将来的には、このような仮想空間においてNFT(非代替性トークン)を用いた新たな経済圏を形成していくことも想定されている。最後の領域Aは、本人のフォトリアリスティックな3Dアバターを用いて実世界と近い環境の中で遠隔コミュニケーションや遠隔の共同作業を行うといった利用形態を示している。自分自身が別空間に言わば瞬間移動(teleportation)して実空間と同等の活動を行うといったイメージである。ここで用いられるリアルな3Dアバターは、無意識に表出される本人の顔の表情(目元・瞼まぶた・視線・眉・口元・頬等の微細な変化)や非言語情報(手・頭部・姿勢の変化等)を豊かに再現できるため、相手の気持ち(関心、賛否、好意等)を理解しやすくなり、親密な意思疎通が可能になると考えられる。NICTの当研究室では、現在、このような3Dアバターの構築と活用を目指した技術の研究開発を進めており、次節でその詳細を述べる。一方、図2の枠組みには、3Dアバターの異なる利用形態だけでなく、実環境と仮想環境の融合の流れを示している。その一つは、実世界(環境・人物)をデジタ図2 バーチャル(仮想世界)・リアル(実世界)融合の枠組み実環境仮想環境(環境/人物)実世界指向Real World Oriented個人アバターPersonalized Avatar仮想世界指向Metaverse Oriented実世界のデジタルツイン仮想世界と実世界のシームレス化アクチュエーション不特定アバターUnspecified Avatar(AR/MR/重畳)多感覚フィードバックABDC(身体性/脳)ユーザ体験100 情報通信研究機構研究報告 Vol.68 No.2 (2022)2 多言語コミュニケーション技術
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