ば、刻々と変化する本人の表情や身体動作・姿勢をどの方向からでも表示・再生させることが可能となる(図5下部)。将来の展開前節で概説したREXRを用いると、本人が無意識に表出する細やかな表情(微表情: micro-expressions)やジェスチャをどの方向からでも入力映像と同程度に精細に3Dアバターで再現できるため、相手の心の機微(微妙な感情変化・意図など)も捉えやすくなると考えられる。特に、細やかな表情変化は相手に対する同意・誠実さ・好意等の社会的関係性の情報を豊富に含むため、複数の人の間の円滑なコミュニケーションを成立させるためには極めて重要な情報となり得る。REXRの将来の応用としては、複数人が参加するオンライン会議での利用が挙げられる。REXRを用いるとリモートであっても仮想空間の中で各人が互いに顔を見合わせた対話が可能となり、現在のオンライン会議システムでは困難な相互理解の深化が図れると期待される(図6、動画は[32]参照)。例えば、初対面の遠隔ミーティングであっても、互いの細やかな表情が伝わり信頼関係を構築しやすくなると考えられる。また、微妙な表情変化や無意識の動作から相手の真意を汲み取ることができるため、シビアなビジネス交渉も円滑に進められると期待される。今後は、複数の人々が仮想空間内で「一体感」を感じられる自然な遠隔コミュニケーションの実現に向けて、3Dアバター構築の精度向上や処理の高速化(リアルタイム対応)の技術開発に取り組んでいく予定である。また、3Dアバターを用いたコミュニケーションが人々の一体感等の形成に与える効果を心理行動実験や脳活動計測実験により検証していく予定である。一方、3Dアバターのリアリティが向上し本人の実映像と区別が付かなくなってくると、他人による「なりすまし」のリスクも生じてくる。本人が気づかないうちに、他人が自分のアバターになりすまして悪用されてしまうリスクを避けるためには、電子透かし技術の活用や本人認証の仕組みの導入等が必要になってくると考えられる。さらに、図2に示した仮想世界(メタバース)指向の領域も含めて考えると、アバターや仮想物体の著作権、肖像権、仮想空間内での傷害・事故に対する責任、ユーザの心身への影響・負荷等についても対策を検討していく必要がある。このような倫理的・法的・社会的課題(ELSI)に関しては、URCF(超臨場感コミュニケーション産学官フォーラム)のメンバー(企業・研究者)とも連携して検討を進め、本技術の社会展開に取り組んでいきたい。おわりに本稿では、先進的リアリティ技術総合研究室で実施している実在感を伴う遠隔コミュニケーションの実現に向けた研究開発について概説した。まず、本研究の基本的アプローチについて述べ、これまでに取り組んできたヒトの多感覚認知メカニズムの解明と超臨場感コミュニケーション技術の研究開発に関してその概要を述べた。次に、これまでの取組を踏まえて実世界と仮想世界を融合する新たな枠組みを提案するとともに、当研究室で現在開発を進めている「リアルで表情豊かな3Dアバターの構築・再現技術REXR」と今後期待される将来の応用展開について概説した。新型コロナ禍は世界の人々に社会活動の制限を強いた一方、リモートでの活動の重要性と可能性を実体験として認識させた。今後は、世の中がリモート活動を積極的に活用したハイブリッド社会へと進む中で、「次56図6 将来のREXRの活用:複数ユーザの3Dアバターによる遠隔ミーティング(左:正面カメラからの入力映像、右:仮想空間を共有したコミュニケーション)1032-5 実在感を伴う遠隔コミュニケーションの探究とその基盤技術の研究開発
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