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ると言われている。マルチモーダル音声対話システムMICSUSは、この介護モニタリングを一部代替する対話システムとして開発しているもので、株式会社日本総合研究所によって策定された「適切なケアマネジメント手法」*2 [1]に基づき、犬型の対話端末(図2)が音声対話を介して高齢者の健康状態等のヒアリングを行う。また、端末が撮影する動画中の顔画像や音声から高齢者の感情等も認識し、より高齢者に寄り添った対話を行うために活用する。なお、犬型の対話端末は高齢者の受容性を高めるために採用したが、通常のスマートフォン等のデバイス向けの移植作業も実施しており、それらのデバイスでもMICSUSの使用は可能である。対話は、基本的にMICSUSが健康や生活習慣等に関する質問を高齢者に投げかけることで進む。高齢者の応答は最新の深層学習技術により解釈され、例えば、質問「毎日3食食べていますか?」に対して「最近、胃腸の調子が良くてね」といった遠回しな回答を行っても高精度に解釈される。また、ユーザの回答によっては質問の聞き直しや、回答の訂正などを行うこともできる。回答は音声だけでなく、頷うなずきや首振りなどのジェスチャーでも可能である。ケアマネジャーはMICSUSの対話結果を「毎日3食食べている」といった簡潔な要約の形で閲覧することができ、介護プラン立案に要する時間を短縮できる。さらに、MICSUSは、飽きずに対話を継続できるようにWeb等の情報を使った多様な雑談(例えば、高齢者の好きな食べ物の美味しい食べ方から、音楽鑑賞等の趣味の話まで)をする機能も備えている点が大きな特徴である。こうした種々の機能を活用したMICSUSによる実際のヒアリングの様子は、実証実験時に撮影された動画*3を参照されたい。実は、MICSUSの真の狙いは、介護モニタリングの一部代替を超えたところにある。MICSUSは人間とは異なり、いかなる時間、いかなる頻度でも対話に応じられるので、現在の月1回というヒアリング頻度にこだわる必要はない。場合によっては、日々健康状態が変化する高齢者と毎日対話し、月1回のヒアリングでは見落としがちな変化に関する情報等を取得することで、介護の質向上にも貢献できる。加えて、ケアマネジャーは多岐にわたる詳細な健康状態のチェックはMICSUSに任せ、人間が介在すべき重要な事案に関する相談に集中できる。また、高齢者の死亡率、要介護度の進行リスクを増大させるとして、近年、深刻な問題となっている社会的孤立[2]、コミュニケーション不足の回避・抑制にも、Web情報等を使った雑談の提供等で貢献できるのではないかと考えている。本稿では、MICSUSの構成と、実証実験の結果について報告する。なお、実証実験で取得した発話は個人情報であるため、本稿に記載するユーザ発話は全て作例としている。図1 介護人材の需要のギャップ(推計)図2 実証実験に使用したMICSUSの犬型対話端末*2ケアマネジャー等の介護支援専門員の知見を共通化・体系化することで利用者が必要とするケアマネジメントを一定以上の水準で提供できるようにするための手法。https://www.jri.co.jp/page.jsp?id=38679*3https://www.youtube.com/watch?v=bRgo31EoIMg142   情報通信研究機構研究報告 Vol.68 No.2 (2022)3 社会知コミュニケーション技術

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