ション開発を可能にし、国内外の環境問題対策や行動ナビゲーション等に関する共同研究等を実施している。以下に、いくつかの事例を挙げる。環境品質短期予測の情報資産を、国内で環境基準が未達成の光化学オキシダントの対策支援に活用する応用を、環境モニタリング事業者と共同で開発している(図6)。自治体等が設置した環境基準測定局のデータを用いて、光化学オキシダントが数時間以内に注意報発令レベルに達するかを予測し、監視要員の待機や待機解除の早期判断に活用している。千葉県11地域を対象に、101箇所の測定局の過去3年分のデータを用いた評価実験で、6時間後の注意報発令レベル予測で60~93%の精度を達成した。また、環境モニタリング事業者がxDataプラットフォームの開発環境(xData Edge)を利用し、県・市管理測定局や周辺エリアの観測データや前駆物質データ(NO3, NMHC等)を追加したり、予測モデルのパラメータ調整(業務フローに合わせた予測時間の設定など)や、気象データに基づく予測結果のスクリーニング処理などのカスタマイズを行い、注意報発令レベルのオキシダント予測で60% (24時間後)~92%(8時間以内)の予測精度を実現するとともに、オキシダントレベルが高くても発令が無いケースの予測を70%削減するなど、業務に即した性能改善を実現した。これらの成果を、環境モニタリング事業者の大気環境常時監視システム(テレメータシステム)に組み込み、自治体における光化学オキシダント注意報・警報早期警戒支援への展開を、環境モニタリング事業者とともに進めている。また、NICTとASEAN地域の4研究機関(ブルネイ工科大(ブルネイ)、ダラット大学(ベトナム)、シンガポール国立大学(シンガポール)、イザベラ工科大学(フィリピン))が共同で行ったASEAN IVO*1のプロジェクト“Reusable, Sharable, and Transferable Smart Data Platform for Collaborative Development of Da-ta-Driven Smart Cities”(令和元~3 年度)では、ASEAN地域の深刻な環境問題に対処するスマートで持続可能な社会の実現に貢献すべく、ASEAN地域の研究機関が現地で収集したデータを用いて、情報資産を応用した煙霧越境汚染被害予測(ブルネイ工科大)やマルチメディアセンシングによる交通公害予測(ベトナム ダラット大)などを開発した。これらの成果はASEAN IVOでも高く評価されるとともに、共同実験で実施したデータ利活用の手法などを基にした現地での社会課題対応への横展開につながった。3.3パブリック・プライベートデータ連携分析のための分散連合AI技術これまでは、データ収集も機械学習もクラウド上で行うクラウド集中型AIが主流であった。しかし、GDPRをはじめとする個人情報保護や世界的なデータ保護主義の高まりにより、すべてのデータをクラウド上に収集することが困難になりつつある。そこで、個々の環境にプライベートデータを保持したまま、共通の機械学習モデルを分散学習することを可能にする連合学習(federated learning)が、近年注目を浴びている。従来の連合学習は、クラウド集中型AIの機械学習をユーザデバイス等のエッジ側に拡張し、エッジに蓄積されたプライベートデータを使って機械学習モデルをパーソナライズすることに主眼が置かれてきた。しかし、IoTや5Gの普及に伴い、エッジで収集できるデータの種類や量は爆発的に拡大し、クラウド側よりエッジ側の方が大量かつ多様なデータをリアルタイムに利活用できる環境が整いつつある中、我々は、エッジ中心のパラダイム、すなわち、エッジ側でデータ収集と機械学習を積極的に行い、個別に学習された機械学習モデルをクラウドに集約し全体最適化を図ることを指向している。例えば、スマートホームやスマートカーなどのエッジ側で、個々の環境、健康、交通等に関するデータを収集し、環境変化に伴う健康リスクや運転リスクの予測モデルを個別適応化しつつ、それらをスマートシティ等のクラウドに集約し、地域全体で予測モデルを最適化しながら、自治体による早図6 環境品質短期予測に基づく光化学オキシダント注意報・警報早期警戒アプリケーション交交通通監監視視((CCCCTTVV))大大気気セセンンササーーMMMMセセンンシシンンググ((AAQQII予予測測))•交交通通公公害害リリススクク予予測測(ベトナムダラット大)•煙煙霧霧越越境境汚汚染染被被害害予予測測(ブルネイ工科大)図7 ASEAN地域の環境問題対策への応用(ASEAN IVOプロジェクト)*1ASEAN IVO: ICT Virtual Organization of ASEAN Institutes and NICT https://www.nict.go.jp/en/asean_ivo/ 156 情報通信研究機構研究報告 Vol.68 No.2 (2022)4 スマートデータ利活用基盤技術
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