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まえがき世界中の人々が言葉や能力の違いを意識せずにコミュニケーションできる、言葉の壁のない社会は人類の大きな夢のひとつである。我が国では、国家プロジェクトとして2014年から言葉の壁のない社会を実現させるためにグローバルコミュニケーション計画が推進されている。世界の「言葉の壁」をなくし、グローバルで自由な交流を実現することを目標とする「グローバルコミュニケーション計画」[1]が最初に総務省から発表されたのは、2014年4月であった。同年、NICTは、この目標を達成するために、研究開発の中心的な役割を担う研究拠点として、先進的音声翻訳研究開発推進センター(ASTREC)を設立した。そして、東京オリンピック・パラリンピック競技大会の開催が設定されていた2020年を目標として、ASTRECに産学官の研究者が集結する形のオールジャパン体制で多言語音声翻訳技術の研究開発と実証実験・社会実装を進めてきた。その結果、国内の鉄道などの交通機関やショッピング施設、観光地、医療の現場などで活用される実用性の高い多言語音声翻訳技術や、企業などにおいて他国の特許や医薬文書などを自動で翻訳できる多言語テキスト翻訳技術などの開発において、目覚ましい成果が得られた。これらの研究開発成果は「グローバルコミュニケーション開発推進協議会」での活動を通じて、産学官の力を結集した成果として大きく社会に広がっている。さらに、2020年3月、総務省より「グローバルコミュニケーション計画2025」 [2]が発表され、ASTRECと音声翻訳の民間サービスを展開する企業を中心とした産学官連携体制による、革新的多言語翻訳技術の新たな研究開発がスタートした。これに基づき、大阪・関西万博が開催される2025年を目標に、高精度と低遅延を両立する実用レベルのAI同時通訳の実現を目指すとともに、多言語翻訳システムの更なる普及・発展及び同時通訳システムの社会実装の推進に取り組んでいる。1我が国では、国家プロジェクトとして2014年から言葉の壁のない社会を実現させるためにグローバルコミュニケーション計画が推進されている。NICTは、この計画の目標を達成するために、産学官から研究者が集結したオールジャパン体制で研究開発を進めてきた。その結果得られた研究開発成果は、産学官の力を結集した成果として大きく社会に広がっている。さらに、2020年、産学官連携体制による新たな研究開発がスタートした。大阪・関西万博が開催される2025年を目標に、ビジネスでも使える低遅延のAI同時通訳の実現を目指す。Since 2014, Japan has been pursuing the national project, Global Communication Plan, with the aim of realizing a society free from language barriers. NICT has been promoting research and de-velopment with an “all-Japan” line-up of researchers from industry, academia, and government to achieve the goals of the Plan. As a result, the outcomes of these research and development activi-ties, which are the fruit of industry-academia-government collaboration, are being widely dissemi-nated throughout society. Furthermore, in 2020, a new research and development project has been launched under an industry-academia-government partnership. We aim to realize a low-latency AI simultaneous interpretation that is capable of supporting business scenes by the year 2025 when the Expo 2025 Osaka, Kansai will be held.2 多言語コミュニケーション技術2Multilingual Communication Technology2-1 多言語コミュニケーション技術の概要2-1 Overview of Multilingual Communication Technology内元 清貴 隅田 英一郎 河井 恒 香山 健太郎UCHIMOTO Kiyotaka, SUMITA Eiichiro, KAWAI Hisashi, and KAYAMA Kentaro32 多言語コミュニケーション技術

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