•逆翻訳結果(翻訳結果をもとの言語に翻訳した結果)この仕組みは、現在のVoiceTra®にも受け継がれている。翻訳アプリの公開は、GoogleやMicrosoft等のIT大手企業に先駆けてのものであり、マスコミでも取り上げられるなど大きな反響があった。ダウンロード数は、2013年3月末までで約86万件であった。なお、社会還元加速プロジェクトは、当初5年計画(2012年度末まで)で実施していたところ、同研究計画を上回る成果を出したため、1年前倒しで2011年度末に成功裏に終了した。これは、社会還元加速プロジェクト6件の内唯一のことであり、非常に高く評価されたと言える。また、NICTは2009年に国際研究コンソーシアムとして「ユニバーサル音声翻訳先端研究コンソーシアム(U-STAR)」を設立し[6]、音声翻訳国際共同実験システムとして「VoiceTra4U」を開発して、2012年7月に無料で一般公開した。その機能のユニークさと性能の高さが各所で高く評価され、後述するGC計画の始動に貢献した。ダウンロード数は、2016年3月末までで約12万件であった。対応言語は公開後も次第に拡大し、31言語に達した。その1つとして、U-STAR 加盟機関である UCSY (University of Computer Studies, Yangon)と連携して世界初となるミャンマー語の音声翻訳システムを開発し、一般公開するとともに、UCSY において報道発表した。これはミャンマー国内でも大きな反響を呼び、現在でもVoiceTra®への入力言語の日本語に次ぐ第2位はミャンマー語となっている。2.2多言語コミュニケーション技術の社会展開成田国際空港株式会社と共同で、2010年度に成田国際空港において施設関係者を対象としたスマートフォン用音声翻訳サービスの検証実験を実施した。この結果を踏まえ、自動音声翻訳技術を提供するライセンス契約を締結し、2011年12月末に成田国際空港向けにカスタマイズされた一般旅行者向けスマートフォン用音声翻訳アプリケーション「NariTra」が実用化された(現在はサービス終了)。このほか、NICTの技術が、株式会社NTTドコモの「しゃべってコンシェル」(2023年6月サービス終了予定)、KDDI株式会社の「おはなしアシスタント」(現在はサービス終了)に採用された。これらはいずれも商用サービスである。VoiceTra®も、2012年12月に株式会社フィートに技術移転され、一時期「Voice-Tra+」として運用された。2.3聴覚障がい者支援への応用VoiceTra®の公開後、音声認識技術は聴覚障がい者支援に役立つとの声が寄せられ、支援アプリの開発に取り組んだ。ろう学校等における実証を経て、2013年6月に「こえとら」を無料公開した。このアプリは、聴覚障がい者が持ち歩いて街中で健聴者とコミュニケーションすることを想定して開発したもので、聴覚障がい者は、相手に伝えたいことを定型文選択やキーボードで入力し、その文章を音声合成技術を用いて音声で健聴者に伝え、健聴者は話したことを音声認識技術で文字にして聴覚障がい者に伝えることでスムーズなコミュニケーションを実現する(図3)。2014年には、英語版の「KoeTra」も公開した。「こえとら」は2015年1月に株式会社フィートに技術移転された。電気通信事業者の協賛により、サービスが継続的に無償で提供されている。また、「こえとら」を用いた実証実験や利用者からのフィードバックにより、聴覚障がい者だけではなく、聴覚障がい者と接する機会が多い健聴者もコミュニケーションに困っていることがわかってきた。そこで、健聴者を支援するコミュニケーションアプリ「SpeechCanvas」を開発し、2014年9月に無料公開した(図4)。このアプリでは、健聴者(役所等の窓口や店舗のスタッフを想定)が話した内容が音声認識技術によって次々と文字になってタブレットに表示され、聴覚障がい者(来訪者)はタブレット上に文字や絵を指でかくこ図3 こえとら(NICT運用時)852-4 多言語コミュニケーション技術の社会実装
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