142■概要将来のサイバーフィジカル社会(Cyber Physical Society: CPS)の実現に向けて、情報通信技術(Information and Communications Technology: ICT)の更なる高度化と革新が不可欠である。高度で多様なCPSの世界像を具現化するには、システム設計や仮想化等のソフトウェア技術はもちろんのこと、同時に、それを物理的に実現するためのキーとなる高機能ハードウェアを創生すること、そしてそれらを構成可能とする革新的なデバイス技術が重要となる。つまり、革新的なデバイス技術は、結果として、新たな社会構造の創出、豊かな社会システムの構築に貢献できるものと期待される。日本におけるデバイス産業やモノ作り産業は危機的状況にあり、企業においては中・長期的な視点に立脚したリスクの高い先導的かつチャレンジングなデバイス研究が滞とどこおりがちとなっている。結果として基盤的な技術開発能力の蓄積に関する将来不安が高まりつつある。このような社会背景のもとNICTでは、最先端のデバイス基盤技術の研究開発を推進するためのオープンイノベーション拠点として「先端ICTデバイスラボ(以下ラボと称する)」を運用している。ラボでは広い範囲の「デバイス基盤」の研究開発が実施されており、これらの研究成果は、将来の情報通信ネットワーク等への応用を目指すことはもちろん、基礎科学の発展や社会実装などの学術や産業の広い分野への貢献が期待される。ラボはNICT本部(所在地:小金井)と未来ICT研究所(神戸)の2拠点にそれぞれ特徴あるクリーンルームを有する。本部では、主として光デバイス技術やミリ波/テラヘルツ波等の高周波デバイス技術、パワー半導体デバイス技術、そして光・電波融合デバイス基盤技術等の研究開発を推進しており、一方で神戸拠点では超伝導エレクトロニクスや有機フォトニクス等の材料から先端的な要素デバイス等の研究開発が進められている。このようにNICTでは、急速に高度化する情報通信への要求に応えるため、光や超高周波等のあらゆる周波数帯を融合して活用できる革新的なICTデバイス要素技術や次世代の基礎となる新素材の開発が行われている。ラボでは、デバイスの設計・試作・実装・評価等の高度ハードウェア開発技術を基に、これらの研究開発を支援・推進している。特に、システムや社会実装等の先の展開を見据えた広い視点でのデバイス研究を議論できるような、産学官連携のオープンイノベーション拠点としてラボを開かれた場として運営している。■令和2年度の成果1.ラボ運営等に関する成果コロナ禍の影響はラボの運用にも大きく影響を与えた。ラボは基本的にはオープン拠点として運用するため、研修生やNICT内外の研究者が多く利用している。そのため利用者間での新型コロナウィルス感染は避ける必要がある。ラボでは図1に示すようなクリーンスーツの更衣室内の人数制限や来所時の検温・消毒などの対策を行った。結果として、ラボの外部利用者登録数は161人と例年よりわずかな減少に留まり、研究開発推進とコロナ感染予防の両立を図ることができたと考えている。なお、第4期中長期計画期間中のラボ外部利用者延べ人数は6,400名に達した。ラボ全体の安全運用を心がけ、利用者には新規利用者講習や継続利用者講習等の安全や環境保全に関する利用者教育を実施し、事故ゼロを継続している。また、ラボでは高圧ガスや化学薬品を利用していることから環境負荷への影響を重視しており、ISO14001認証の継続的な取得を達成している。ISO14001に沿って、外部利用者への高圧ガス・危険化学物質に関する講習会を実施し、令和2年度は111名(中期計画期間中:延べ552名)が受講した。大学等の多くの研修生や研究者の知識のアップデートに貢献できたと期待している。また、同講習会をNICT内へも展開する試みを令和元年度から実施しており、令和2年度は延べ82名が受講した。図1 コロナ禍におけるラボ運用の見直し。クリーンルーム更衣室の入室制限(左)や検温・消毒等の対策(右)3.10.8.2先端ICTデバイスラボラボ長(兼務) 山本 直克ほか5名デバイス技術のイノベーションを目指して
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