18■概要ICTを利活用して人類の新たな価値を創造するためには、我々を取り巻く環境から様々な現象や状況を観測・測定してデータ化し、情報に置き換えていく必要がある。電磁波研究所のミッションは、電磁波を用いてこの機能を実現することである。「電磁波の特性を活いかしたより正確な計測を実現することにより、社会を守り生活を守るとともに、これまで見えなかったことを見ることにより科学の新たな価値の創造を導く」ことを目標に掲げ、NICT内はもちろん、産業界やアカデミアとの連携を構築することにより、電磁波の新たな応用分野の開拓も進める。今中長期計画では、電磁波を利用して人類を取り巻く様々な対象から様々な情報を取得・収集・可視化する技術である「リモートセンシング技術」や「宇宙環境計測技術」、社会経済活動の基盤となる高品質な時刻・周波数を発生・供給・利活用するための基盤技術である「時空標準技術」、様々な機器・システムの電磁両立性(EMC)を確保するための基盤技術である「電磁環境技術」について研究開発を実施する。令和2年度も、当研究所内にリモートセンシング研究室、宇宙環境研究室、時空標準研究室、電磁環境研究室、電磁波応用総合研究室の各研究室を設置して研究開発を推進した。■主な記事電磁波研究所における令和2年度の主なトピックスを以下に示す。なお、1. の詳細については、それぞれの研究室の項を参照いただきたい。1.各研究室における活動の概要(1)リモートセンシング研究室・豪雨の高精度予測を可能にする水蒸気量観測の実現に向けて、地上設置型水蒸気・風ライダーを完成させ、高出力パルスレーザの発振波長を広範囲にわたって長期間安定して制御する手法の開発に成功した。・次世代ウィンドプロファイラにおけるアダプティブクラッタ抑圧システム(ACS)の開発において、気象庁WINDASにACSを実装した実証実験の結果から、クラッタ抑圧に極めて有効であることを実証した。・航空機搭載合成開口レーダーの研究開発を進め、地表の高分解能3次元イメージングの更なる高度化により、地表と構造物群を分離する手法を完成させた。・雲エアロゾル放射ミッション(EarthCARE)衛星搭載雲プロファイリングレーダー(CPR)の開発では、地上データ処理によりドップラー速度の精度を評価し、水平積分や折り返し補正の効果を検討した。(2)宇宙環境研究室・国立研究開発法人情報通信研究機構法(以下、機構法)第14条第1項第4号に定められている「電波の伝わり方の観測、予報・異常に関する警報の送信等」の業務を着実に行うために、国内4か所の電波観測施設及び南極においてイオノゾンデによる電離圏観測を24時間365日実施し、宇宙天気予報を発出した。・観測やモデルで得られる様々な3次元電離圏電子密度分布に対応する電波伝搬シミュレータ(HF-START)を開発した。電離圏リアルタイムトモグラフィーと結合することにより、ウェブサービスで電波伝搬の可視化結果を提供する運用を開始した。・大気電離圏モデル(GAIA)をメジャーアップデートし、データ同化アルゴリズムを実装するとともに、電離圏観測データ(全球TEC)の導入実験も実施した。また、GAIAの宇宙天気予報業務での試行を開始した。・科研費新学術領域「太陽地球圏環境予測(PSTEP)」において、宇宙天気の我が国への影響評価に関する報告書「科学提言のための宇宙天気現象の社会への影響評価」を作成し、10月に公開・報道発表した。(3)時空標準研究室・機構法第14条第1項第3号に定められている「周波数標準値の設定、標準電波の発射、標準時の通報」の業務を着実に行い、標準電波の発射では年間99.99%の時間で送信を行い、NTP(ネットワークタイムプロトコル)サービスでは毎日40億を超えるアクセスがあった。・NICTが保有するインジウムイオン(In+)光時計とストロンチウム(Sr)光格子時計との周波数比較を行い、4日間の時計動作により7.7×10-16の不確かさで周波数比を得て論文発表した。また、これらのデータは国際度量衡委員会(CIPM)時間周波数諮問委員会に提出され、CIPM推奨周波数の更新に寄与した。・チップ型原子時計の開発では、低コスト化と歩留り改善を目的に、周波数調整精度を改善したGHz帯MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)発振器の開発、波3.1電磁波研究所研究所長 平 和昌
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