253観みる●センシング基盤分野周波数比較を実施した。4日間の時計動作により、7.7×10-16の不確かさで周波数比を計測し、その結果を論文発表した。In+周波数標準と他の光時計との周波数比較はこれまでなく、本測定が初めてである。また、これら光格子時計及びイオン光周波数標準に関するデータは令和3年3月に開催された国際度量衡委員会(CIPM)時間周波数諮問委員会に提出され、CIPM推奨周波数の更新に寄与した。テラヘルツ周波数標準技術においては、半導体超格子ハーモニックミキサーを利用した高精度・広帯域THz周波数カウンターを開発した。2台のカウンターで計測されたTHz周波数の比較から、その計測精度が1×10-16に達することを確認した。また、計測可能な周波数範囲(0.12THz~2.8THz)が4オクターブ以上及ぶことも実証し、実用的なTHzカウンターの実現に成功した(図3)。3.高精度な時刻・周波数比較・伝送技術の研究開発衛星双方向搬送波位相方式と時刻比較の双方を実現するために開発した次世代通信モデムについて、昨年度に国内で得られた結果を基に論文化を実施した。また昨年度から実施していた欧州3か国の標準機関(ドイツPTB、フランスOP、イタリアINRIM)との実験について解析を進め、時間周波数諮問委員会のワーキンググループ会合を含めた国際会合で報告した。国内では、おおたかどや山、はがね山標準電波送信所、神戸、小金井(東京都)の4局から成る定常時刻比較リンクを次世代通信モデムを用いて構築し定常測定を開始した。VLBI(超長基線電波干渉法)を使った長距離周波数伝送の研究開発では、2018-2019年にイタリア国立計量研究所(INRIM)のイッテルビウム(Yb)光格子時計とNICTのSr光格子時計を、VLBI観測により世界で初めて16桁の精度で比較した結果についてNature Physics に発表。同誌には解説記事も載ったほか、新聞報道や多数のWEB掲載など内外で広く報じられた。また、測地学への応用を含めた技術的詳細を記載した論文も J.Geodesyに掲載された。その他、広帯域受信機の新たな応用として水蒸気ラジオメータの新規開発を進めた。また、東京大学宇宙線研究所や理化学研究所との共同研究により強力な電波パルスを発するカニ星雲のパルサーをX線と電波で同時観測した結果がScience誌に掲載された。これらVLBI周波数比較のプロジェクトや電波天文学に貢献した鹿島34 mアンテナは、台風15号の影響を受けた令和元年より運用を停止し、令和2年10月に運用終了を記念する式典と講演会を開催した(図4)。4.高精度な時刻・周波数の利活用技術の研究開発双方向無線時空間測定技術(ワイワイ)については、昨年度開発されたRFチップを実装したワイワイモジュールを試作し、サブマイクロ秒の時刻同期精度を確認した。また、ポスト5G技術についての公的研究資金に東京大学、東北大学、日本電波工業と共同で応募して採択され、ワイワイによる時刻同期を基盤とした通信プロトコルの研究開発を開始した。次世代の同期通信網において様々な応用展開が期待されるチップ型原子時計の開発については、低コスト化と歩留り改善を意識して、周波数調整精度を改善したGHz帯MEMS発振器の開発に加え、波長可変性を付加したVCSELの開発を開始した。また、小型化を企図したガスセルの開発において、ウェハープロセスに好適な反応生成物を生成しない固体Rb源(RbN3)を独自に開発、バッファーガスの吸着による長期ドリフトを大幅に抑制したガスセルの開発に成功した。さらに、MEMS共振子を活用した発振器では、機械振動子の非線形効果により二分周動作を実現できることを新たに発見し、ロックインアンプの要らない自律発振型の原子時計ループの実現に一歩近づいた。レジリエントな時刻同期ネットワークを展開するために、小型原子時計を利用した分散型時刻同期の研究開発を開始した。小型原子時計がノードに設置されているネットワークにおいて、時刻差の比較情報から各ノード最も確からしい時刻についてシミュレーションを実施した。また、実機による実証実験に向けてデジタル時刻差測定装置を開発し、その性能を評価した。図3半導体超格子ハーモニックミキサーを利用したTHz周波数カウンターの周波数安定度と計測不確かさ.図4令和2年10月3日に開催した「鹿島34 mアンテナ運用終了記念式典」の式典参加者集合写真。3.1 電磁波研究所
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