28■概要電磁波応用総合研究室は,社会インフラや文化財の効率的な維持管理等への貢献を目指して、電磁波を用いた非破壊・非接触の診断が可能となる技術やフィールド試験用装置に関する研究開発を行い、観測データの解析技術及び可視化技術の研究開発を行うとともに、電磁波応用技術に関する萌ほう芽が的な研究も推進している。非破壊センシング技術とホログラム印刷技術に関する2つの独立したプロジェクトがあり、さらに他の研究室と協力し電磁波研究所のアウトリーチに活動にも注力している。 非破壊センシング技術のプロジェクトでは、マイクロ波から赤外線までの電磁波を用いて、目では見えない物体の内部構造を観測する技術を開発している。周波数が低い(波長の長い)マイクロ波は、物体の内部に深く伝搬できるため、コンクリート建造物内部の鉄筋分布等の調査に広く用いられている。ミリ波、THz波と周波数が高くなるにつれて、分解能は高くなるが、物体内部への伝搬距離が短くなる。NICTでは約10年前より、世界に先駆けてTHz波によるイメージング技術を絵画等文化財の非破壊調査に応用し、現在ではヨーロッパを中心に広く用いられている。ホログラム印刷技術のプロジェクトでは、光を波面として正確に記録・再生する技術であるホログラフィの特性を生かし、フォトポリマー等の感光材料に、高精度かつ安価な光学素子を記録することを目指している。電子ホログラフィによって、所望の光の波面を物理的に発生させることで、数値計算に基づいて様々な光学的機能を持つホログラフィック光学素子をデジタル的に製作できる波面印刷技術及び波面印刷技術を中核として、光学素子の評価・応用技術、光学素子の補償技術、素子の複製技術などを含んだホログラム印刷技術(HOPTEC:Hologram Printing Technology)を研究開発している。■令和2年度の成果1.非破壊センシング技術非破壊センシングプロジェクトでは、土木分野で用いられているマイクロ波レーダーをコンクリート建造物の内部構造調査に用いる実用化検討のため、模擬欠陥を含むコンクリート試料を用いて観測可能な条件を明らかにした。また、神奈川県藤沢市所蔵の長谷川路可作のフレスコ画「イタリアの想い出」をテラヘルツ波時間領域イメージング技術を用いて公開調査し、作品内部の支持体の構造等を可視化した(図1)。図1 藤沢市所蔵 長谷川路可作「イタリアの想い出」のテラヘルツ波による調査例3.1.5電磁波応用総合研究室室長 福永 香ほか4名電磁波応用の可能性を広げる研究開発と社会展開
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