34■概要第5世代モバイル通信システム(5G)の普及や新型コロナウイルス感染症拡大防止のための「新たな日常」の定着によるインターネット利用の拡大により、通信トラヒックは増加しており、この傾向は今後も続くと予想される。我々は、将来の膨大な通信トラヒックを収容するための基幹ネットワーク実現を目指して、光ネットワークの大容量化・省資源化に資する基礎的・基盤的技術の研究開発を行っている。具体的には、以下の技術の研究開発に取り組んでいる。(1)空間多重技術を活用してペタビット級の通信容量を実現させる超大容量マルチコアネットワークシステム技術(2)通信サービス要求の動的変化に柔軟に対応して波長資源の高速な割り当てを可能にする光統合ネットワーク技術(3)光アクセスから光コアまでをシームレスにつなぐ光アクセス・光コア融合ネットワーク技術■令和2年度の成果1.超大容量マルチコアネットワークシステム技術マルチコアオール光スイッチング技術の研究開発として、ペタビット級ネットワークの延伸化のために、空間多重信号分離素子を使用しないコア単位スイッチングが可能な12コアファイバ向けの低損失光スイッチを開発した。また、最適なホログラムの記録条件を見いだし、令和元年度までの体積ホログラムモード多重分離器の13倍以上の回折効率・低損失化を実現し、国際会議PSC (Photonics in Switching and Computing) 2020にて発表した。標準外径空間多重光ファイバ伝送の研究開発として、最大15モードの伝搬が可能なマルチモードファイバを用いて C+L バンド(波長1,530~1,625 nm)の大容量伝送システムを構築し(図1)、1.01ペタ bpsで23 kmの大容量伝送実験に成功し、これまでのマルチモードファイバにおける伝送記録である402テラ bpsを2.5倍更新する世界記録を達成した。本成果は、ECOC(Euro-pean Conference on Optical Communication)2020の最優秀論文(通称ポストデッドライン論文)の特別セッションに採択された。また、標準外径3モードファイバを用いこれまで基幹系の光ネットワークには利用されていないSバンド(波長1,460~1,530)の伝送システムを構築し、55 kmの伝送を行い、モード多重伝送における波長多重領域の拡張可能性を評価し、学術論文誌OSA Optics Expressにて発表した。超大容量伝送を実現する大口径光ファイバ伝送の研究として、7コア光ファイバによって構成したループ系において、世界初のデジタル逆伝搬法とMIMO (Multiple-input-multiple-output)処理を組み合わせた長距離伝送評価系による実証実験を行った。20 Gbaud の偏波多重QPSK信号を太平洋横断級の8,055 km伝送した結果、信号利得1.6 dB(伝送距離28%延伸に相当)を達成した。本成果は、学術論文誌IEEE Photonics Technology Lettersに掲載された。また、マルチコアファイバを用いた1,600 kmの長距離伝送でのコア間クロストークの影響の評価を行い、自然放出光、非線形歪ひずみ、コア間クロストークそれぞれの寄与の割合から、波長多重の最適な波長配置について提案した。本成果はIEEE Journal of Selected Topics in Quantum Electronicsに掲載された。産学との連携による社会実装を目指したフィールド実証として、イタリアのラクイラ市の標準外径4コアファイバの実環境テストベッドにおいて、複数のコアを伝送する光信号間の到着時間ずれの変動を測定し、デバイス分野のトップカンファレンスCLEO(Conference on Lasers and Electro-Optics)にて成果を発表した。光コム光源382波長偏波多重64QAM変調123kmモード分離器モード合波器MIMO処理15モモーードド光光フファァイイババ・・・・・・・・・・・・・偏波多重64QAM変調15382波長波長分離1波長分離15・・・・・・・・・・・・・伝搬モード図1 15モード光ファイバを用いた大容量伝送システム3.2.1フォトニックネットワークシステム研究室室長 古川 英昭ほか18名将来の大容量通信を実現する光ネットワーク技術
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