42■概要 5G(5th Generation)が商用化され、国内外を問わずワイヤレスシステムの研究開発はB5G(Beyond 5G)時代を見据えたフェーズに移行しつつある。B5G時代は、これまで以上に多くのモノが接続される「モノ主体システム」が社会インフラの構造的改革をもたらすことが予見され、周波数逼ひっ迫ぱくや相互干渉などの従前の課題を解決しつつ、多様なシステム・サービスが相互に連携することで相乗効果を得る仕組みの実用化が課題と考えられる。したがって、地上系無線通信システムは、伝送速度等の単一スペックの高度化ではなく、高スループット、高モビリティ、低遅延、大容量、多数接続、省電力等を組み合わせた、用途に応じた最適スペックの実現により高度な社会インフラを具現化することが期待される。また、多様化する無線サービス要求に対して、電波システムの設計・評価から相互システム連携まで、幅広い活用が期待されるサイバーフィジカル連携技術が注目を集めているが、その応用展開・浸透には多様なシステム実装、性能向上、機能拡張等、更なる高度化が必要である。このような状況において、ワイヤレスシステム研究室では、地上系電波利用の有効な提言を行う唯一の国立研究機関であるNICTの役割を念頭に、国内電波産業の方向性に合致し、先進的な研究開発を公平性ある立場で行うとともに、標準化・認証等を経て成果の社会展開を図る研究開発の方向性を掲げている。このために、当研究室では、1.インフラ高度化による高機能アクセスを検討するワイヤレスネットワーク制御・管理技術、2.端末高度化による端末網形態多様化を検討するワイヤレスネットワーク適応化技術、3.無線通信の信頼性向上・適用環境拡張を検討するワイヤレスネットワーク高信頼化技術、のサブプロジェクト概念を導入し、検討を進めている。■令和2年度の成果令和2年度は、上述した3つのサブプロジェクトにおいて、それぞれ次のような成果を上げた。1.ワイヤレスネットワーク制御・管理技術総務省情通審ローカル5G検討作業班によるローカル5G制度化に貢献し、プライベートマイクロセル導入による5G / ローカル5G可用性向上のためのアーキテクチャ・基地局構築の研究開発の成果として、鉄道環境での接続時間短縮、防災用途高精細映像伝送等を実証した。また、B5Gネットワークの基盤技術として期待されるワイヤレスエミュレータの研究開発を実施し、5G NR、IEEE 802.11axの基本機能を実装した模擬無線システムを開発した(図1(a))。B5Gに資する高度化技術として最大2倍の周波数効率が期待されるFull duplexの基地局実装技術の研究開発では、問題となる自己干渉信号の除去について、28 GHz帯を含む複数周波数帯で運用可能な方式を提案し、特許出願及び試作評価を実施した。さらに、5G / B5Gの効率的な無線アクセス手法をもたらす接続性向上に資する無線技術として、低遅延・多数接続を両立する無線アクセス方式STABLEの研究開発を継続し、送信ダイバーシチにより接続数と通信品質の向上を図り、屋外伝送実験にて10台端末局の同一リソース・同時接続でパケット誤り率10%以下を実現した(図1(b))。また、トヨタ自動車の受託研究ではモビリティを考慮した拡張を行い、特許出願及び3GPP RAN1における標準化活動を実施した。テラヘルツ波通信について、テラヘルツ連携研究室と共同でアンテナ測定や技術動向調査を実施図1ワイヤレスネットワーク制御・管理技術:(a) ワイヤレスエミュレータの模擬無線システム、(b) STABLEによる10台同時接続実証実験(a)(b)3.3.1ワイヤレスシステム研究室室長 児島 史秀ほか31名B5G時代の高度社会インフラ具現化を目指した研究開発
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