44■概要宇宙通信研究室では、地上から宇宙に至るまでを統合的に捉え、いつでもどこでもだれとでも通信が可能で、高速化・大容量化・広域利用を実現する光波と電波を利用した衛星通信技術による研究開発を推進している。光衛星通信では、衛星通信の大容量化への期待の高まりや周波数資源逼ひっ迫ぱくの解決に応えるため、10 Gbps級の地上–衛星間光データ伝送を可能とする衛星搭載機器の研究開発を行うとともに、通信品質向上等の研究開発を実施している。また、海外の宇宙機関等とのグローバルな国際連携を行い、世界に先行した宇宙実証を目指すことで国際的優位性を確保しつつ、グローバル光衛星通信ネットワークの実現に向けた基盤技術を確立することを目指している。電波の衛星通信では、令和5年打ち上げ予定である技術試験衛星9号機(ETS-9)への通信機器の搭載を目指している。ここでは衛星からユーザ端末への通信容量としてユーザ当たり100 Mbps級のKa帯大容量衛星通信システムを実現し、平時はもとより災害時においても通信回線を確保するため、非常時の地上系通信ネットワークの輻輳・途絶地域及び海洋・宇宙空間に対して柔軟・機動的にブロードバンド通信を提供する地球局技術や広域・高速通信システム技術の研究開発を推進している。以下に、グローバル光衛星通信ネットワーク基盤技術と海洋・宇宙ブロードバンド衛星通信ネットワーク基盤技術の各プロジェクトについて令和2年度の成果を述べる。■令和2年度の成果1.グローバル光衛星通信ネットワーク基盤技術ETS-9での宇宙実証を目指し、静止衛星と地上局の間で10 Gbps級の世界初の伝送速度を実現する超高速光通信機器の製作を引き続き推進した(図1)。ロケット打ち上げが1年延期となったため、搭載機器の開発スケジュールを整合させ、ビーコン送信機器・光通信機器間の噛み合わせ試験準備及びビーコン送信機器の試験を完了した。衛星搭載を前提とした超高速光衛星通信デバイスの開発を委託研究の形で推進し、その成果を活用して超高速光通信機器の光送受信部、制御部、光学部の詳細設計から製造を進めた(図2)。平成30年度に開始した総務省直轄委託研究「衛星通信における量子暗号技術の研究開発」において、令和元年度に製造した可搬型光地上局用の望遠鏡部分可搬型光地上局粗追尾系の初期性能の確認、可搬型光地上局に取り付ける精追尾光学系の製造の実施及び可搬型光地上局の運用手順を確立した。また、飛しょう体向けの光通信ターミナルについては、共同研究機関と共に検討を続け、具体的な開発計画を立てた。東北大学が中心となって開発した超小型理学観測衛星ライズサット(RISESAT)に搭載したNICT開発の超小型光送信器(VSOTA)については、令和元年1月に打上げ成功後、VSOTAの機能を確認し、その成果を日本航空宇宙学会等で公表した。また、光衛星通信技術の応用として、NICTが開発した再帰性反射鏡を小型衛星に搭載し、正確な軌道や姿勢情報が得られていない衛星をターゲットと見立てたレーザ測距実験に成功した(図3)。さらに、令和元年度に実施した国際宇宙ステーションの「きぼう」曝ばく露ろ部に搭載された株式会社ソニーCSLの開発の光衛星通信端末SOLISSと、NICT光地上局(小金井)の光通信実験のおいては、令和2年4月に3者合同でプレスリリースを発表し、「2020年度グッドデザイン賞」をNICT、JAXA、SONY CSL、リコーで共同受賞した。国際標準化については、国内標準化委員会や宇宙データシステム諮問委員会(CCSDS)へ引き続き参加し、NICTがエディタとなって、光衛星通信用レーザ光の大気中伝搬特性や気象データの扱いに関するマゼンタブック(推奨実践規範)は完成とな大大気気ゆゆららぎぎ搭搭載載光光通通信信機機器器 耐耐環環境境性性評評価価技技術術試試験験衛衛星星99号号機機 地地上上--衛衛星星間間光光デデーータタ伝伝送送((光光フフィィーーダダリリンンクク)) 1100GGbbppss級級ユユーーザザ回回線線((RF)) 図1 ETS-9を用いた光フィーダリンク実験の構成概要衛星搭載用 10Gbps光送受信機 衛星搭載用 制御部 衛星搭載用 光学部 図2 ETS-9搭載用超高速光通信ターミナルの開発3.3.2宇宙通信研究室室長 豊嶋 守生ほか31名超高速・大容量で柔軟なハイスループット衛星通信技術を目指して
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