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50■概要データ駆動知能システム研究センターの目的は、大規模なテキストデータを対象とする自然言語処理を開発し、ネット等にテキストとして流布している、社会における知、すなわち社会知を意味的に深く分析し、有効活用できる枠組みを開発することである。この目標を達成するため、大規模Web情報分析システムWウィズダムISDOM Xエックスや次世代音声対話システムWウェクダEKDA、さらには内閣府戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)(第二期)「ビッグデータ・AIを活用したサイバー空間基盤技術」の支援の下、KDDI株式会社、NECソリューションイノベータ株式会社、株式会社日本総合研究所と共同でマルチモーダル音声対話システムMミクサスICSUSの開発を推進している。MICSUSは近年非常に大きな社会課題と認識されている高齢者介護の負担軽減を狙ったものである。今年度は、特に、平成27年より深層学習を使わないバージョンを試験公開してきたWISDOM Xを深層学習を用いたバージョンへとアップグレードし、公開を開始した。さらに、深層学習の高度化のための自動並列化深層学習ミドルウェアRランクaNNCも開発を推進し、今年度フリーソフトウエアとして一般公開を行った。加えて、内閣府SIP第二期「国家レジリエンス(防災・減災)の強化」の支援の下、(国研)防災科学技術研究所、株式会社ウェザーニューズ、LINE株式会社と連携し、NICT 耐災害ICT研究センターと共同で、被災情報をLINE上での対話を介して収集する防災チャットボットSソクダOCDAの開発も推進し、これまでに開発した対災害情報分析システムDディサーナISAANA、Dディーサム-SUMMと合わせて、社会実装に向けた活動を行い、実際に民間企業による商用展開も開始された。これらの防災に関わる話題については耐災害ICT研究センターの稿をご覧いただきたい。■令和2年度の成果今年度の成果の第一は、平成27年より試験公開してきたWISDOM Xを深層学習版にアップグレードし、試験公開を開始したことである。(公開サイトは、https://www.wisdom-nict.jp/)この深層学習版は、近年注目を集めているBERTという巨大ニューラルネットワークを、約350GBという大量のWebテキストやNICTで構築した高品質かつ大量の学習データで学習させ、さらにBERTを敵対的学習と組み合わせる独自の改良版も使って、従来公開してきた非深層学習版より広範な質問へのより高い精度での回答を実現したものである。質問応答の情報源としてはWeb60億ページから抽出した情報を使っており、初期バージョンでも回答可能であった「何/どこ/いつ/誰/どんな」等のタイプの質問(例:「AIって、どんな社会問題の解決に使えるのかな?」、「高齢者のケアができるAIを使った技術には何がある?」)や、「なぜ」型質問(例:「高齢者介護でコミュニケーションロボットが必要なのはなぜ?」)、「どうなる」型質問(例:「量子コンピュータが実用化されるとどうなる」)に関して、より多様な質問により高い精度で多様な回答を提示可能である。例えば、図1で示した質問「AIが解決できそうな高齢化の問題は何がある?」は初期バージョンでは回答ができなかったが、今回のバージョンアップで回答可能となった。加えて、初期バージョンでは回答ができなかった「AIはどうしたらCO2回収の技術の開発に貢献できる?」のような「どうやって/どうしたら(How-to)」型の質問にも回答可能となった。また、「チーズとネギがあるけど、つまみになにをつくったらいいかな?」のような日常的な言い回しをそのまま入力しても回答できる(図2)。なお、既存の検索エンジンは多くの場合、検索キー図1 WISDOM Xの回答の様子質問「AIが解決できそうな高齢化の問題は何がある?」132件の回答介護問題ロコモティブシンドローム孤独社会ラストワンマイル交通弱者空き家問題介護離職老老介護買物弱者医師不足2040年問題後継ぎ不足孤独死交通事故、医療費熟練作業者不足3.4.1データ駆動知能システム研究センターセンター長  鳥澤 健太郎ほか17名社会における知の深い分析と有効活用

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